ストーリー
薔薇(バラ)一族と呼ばれ、ファンに愛される血統がある。繁殖牝馬ローザネイから広がる系統の競走馬たちだ。
ローザネイの娘ロゼカラーは牝馬ながらデイリー杯3歳S(当時)を差し切り、翌年のオークスでは4着、秋華賞では3着とG1でも上位をにぎわした。その弟のロサードはオールカマーなどを勝ち、ロゼカラーの娘ローズバドはフィリーズレビューを制したほか、オークス・秋華賞・エリザベス女王杯でいずれも2着と健闘。他にもセントライト記念や中山金杯の勝ち馬ヴィータローザ、毎日杯や金鯱賞を勝利したローゼンクロイツなども出て、この牝系は“走る血”として常に注目を浴び続けているのである。
だが愛すべき薔薇一族は、エアグルーヴやディープインパクトといった歴史的名馬たちに夢を阻まれ、G1のタイトルとは無縁というジンクスがあった。その分厚い壁を力強く乗り越えてみせたのがローズキングダムだ。
父キングカメハメハ、母ローズバドの子として生を受けたローズキングダムは、いきなり一族にとっての悲願を成し遂げる。
2009年秋、京都・芝1800mで迎えた新馬戦でヴィクトワールピサとのマッチレースを制したローズキングダムは、続く東京スポーツ杯2歳Sでもトーセンファントムの猛追をアタマ差封じてデビュー2連勝をマーク。堂々の1番人気で第61回朝日杯フューチュリティSへと乗り込むことになる。
完璧といっていいレースだった。先行勢を見る中団で脚をためたローズキングダムは、直線で一気に力を解き放つ。前にいる数頭を鮮やかに交わし去り、残るは好位から抜け出した京王杯2歳S勝ち馬の2番人気エイシンアポロンだけだ。これも鋭く差し切ると、1馬身4分の1差をつけて先頭ゴール。祖母や母、一族の先輩たちがあれほど苦労したG1という山の頂を、ローズキングダムはいともたやすく克服してみせたのである。
ただ3歳クラシックでのローズキングダムは、いかにも薔薇一族らしい戦績を残していく。皐月賞4着、日本ダービー2着、菊花賞2着。常に主役の1頭としての地位をキープしながらも、ヴィクトワールピサやエイシンフラッシュといったライバルの前に結局は無冠に終わるのである。
それでもレースのたび懸命に駆け、持てる力を発揮し続けたローズキングダムは、ふたたび栄冠を勝ち取る。3歳の身で挑んだ2010年・第30回ジャパンカップでのことだ。
前走・天皇賞(秋)を勝利したブエナビスタが断然人気に応え、直線一気の差し脚を繰り出したこの一戦。だが直線での斜行が原因で、この絶対女王は1位入線も降着となる。 不利を受けたローズキングダムだったが、そこから立て直すと諦めずに前を追い、ヴィクトワールピサをハナ差捉えて2位入線。結果繰り上がりの優勝となった。二度目となる大輪の薔薇をターフに咲かせた瞬間だった。