ストーリー
ハワイを統一した王から名前を取られたキングカメハメハ。そのキングカメハメハと短距離オープンで2勝をあげたソルティビッドの間に生まれた娘には、アパパネという名前が与えられた。ハワイに棲むアカハワイミツスイという赤い鳥の、現地での呼び名である。
愛らしい馬名に似合わず、アパパネは猛々しいまでの勝負根性をターフで見せ、いくつもの記録を刻んでいくこととなる。
2歳7月に福島で迎えた新馬戦は3着に敗れたものの、未勝利戦をアッサリと勝ち上がり、続く赤松賞では早くもアパパネは大器の片鱗を示す。2着を2馬身半突き放すレコード勝ちだ。この勝利が評価され、2番人気で臨んだのが2009年の阪神ジュベナイルフィリーズ。ゲート入りを嫌がったアパパネだったが、直線では先行勢の真ん中へと突っ込み、追いすがるアニメイトバイオやベストクルーズらを封じ込めるようにしてゴールする。まずは上々の競走生活スタートだった。
ここからのアパパネの歩みは「勝つべきレースには勝った」と評するべきだろうか。
3歳初戦のチューリップ賞は、直線で堂々と抜け出しながらショウリュウムーンとの競り合いに4分の3馬身遅れてしまう。が、本番の桜花賞ではしっかりと復活。好位から脚を伸ばし、逃げるオウケンサクラをねじ伏せての勝利、桜花賞レコードとなる1分33秒3を叩き出して第一冠を制してみせたのだ。
続くオークスも印象深いレースとなった。直線、大外からトライアルの勝ち馬サンテミリオンとともにアパパネも伸びる。先頭に躍り出ても2頭は譲ることなく叩き合い、並んだままのゴール。長い写真判定の末に、JRA・GIでは史上初となる「1着同着」という結果を見たのである。
秋は、初戦のローズSで4着に敗れたアパパネだったが、秋華賞では力強い差し脚を蘇らせての勝利。史上3頭目の牝馬三冠を達成するのだった。
エリザベス女王杯では世界的な強豪スノーフェアリーの鬼脚に屈し、年上のメイショウベルーガにも交わされて3着にとどまったアパパネは、4歳初戦のマイラーズCでも伸びを欠いて4着に終わる。
しかし、ここから鮮やかに再上昇してみせるのがアパパネの真骨頂だ。その舞台となったのは2011年・第6回ヴィクトリアマイル。ブエナビスタとの対決が実現した一戦である。
すでに5つのGIタイトルを持ち、牡馬とも互角以上に戦って最強牝馬と称えられるブエナビスタ。その難敵を相手に、アパパネは女王らしいレースで立ち向かった。後ろから襲い掛かるライバルを力ずくで封じ込める、自信に満ちた走り。結局ブエナビスタに交わすことを許さず、クビ差で勝利をつかむ。
これでアパパネもGIを5勝。牝馬としては史上4頭目、歴代最速の記録達成だ。勝つべきレースに勝つ強(したたか)さで、アパパネはその頂へとたどり着いたのである。