ストーリー
芝ダート双方でG1勝ちを収めたクロフネ。特に3歳秋、ダートに転じた武蔵野S、ジャパンCダートでの圧倒的な強さは印象的だ。今回紹介するスリープレスナイトはそのクロフネ産駒。父とは逆に、デビュー当初はダートで勝ち鞍を積み重ね、芝に転じてG1タイトルを獲得した馬だった。
スリープレスナイトのデビューは明けて3歳を迎えた07年1月。芝の2戦を2、3着と惜敗した後、3戦目のダート1200mを快勝。残り200mで先頭に立つと、ここから馬なりで後続に10馬身差をつけるという圧倒的な勝利だった。続く昇級戦は2着敗退を喫したものの、5戦目からは500万、1000万、1600万と3連勝。ダート1200m戦を5戦4勝、2着1回でオープン入りを果たした。
しかし、オープンでは1400mで5、5、2、2着。先行すると終いが甘くなり、溜める競馬を試みても惜敗と、距離の壁を感じさせるレースが続いた。
オープン入り後4連敗を喫したスリープレスナイトだったが、08年4月の京葉Sで、オープンでは初めて1200m戦に出走。すると、前半33秒4のハイペースを2番手追走から競り勝って優勝。さらに、続く栗東Sでも好位から抜け出し2連勝と、あらためて1200mへの適性の高さを証明した。
陣営が次の目標に定めたのは、久々の芝となるCBC賞だった。デビュー2戦の芝2、3着は1400mと1600m戦。ダートでも1400mでは壁があっただけに、芝でも「1200mなら」という期待のかかる一戦だった。
ここでスリープレスナイトは「芝でも」どころか「芝でこそ」というスピードを発揮する。抑えきれないほどの手応えで2番手を追走し、直線では楽々と抜け出して2着スピニングノアールに1馬身4分の1差の快勝。さらに、続く北九州記念もマルカフェニックスに2馬身差で完勝。1200mは芝ダート通算で9戦8勝、2着1回という圧倒的な成績を引っさげ、いよいよG1の舞台・スプリンターズSに参戦することとなった。
迎えたスプリンターズSは単勝2.4倍の1番人気。連勝中とはいえオープン特別とG3、そして脚質的に急坂の待つ中山はどうか、という不安も抱えていたが、ファンは1200mでのこの馬の強さを信じていた。そして、スリープレスナイトもその信頼を裏切らぬ見事な走りを披露した。外枠から好ダッシュを決め、内の各馬の出方を見つつ控えて5番手。4コーナー手前から徐々に進出すると、急坂でも力強く伸びきってキンシャサノキセキに1馬身4分の1差。G1初参戦ながら、まさに王者のレース振り、横綱相撲での完勝だった。
この勝利で08年の最優秀短距離馬のタイトルも獲得したスリープレスナイト。その後は順調さを欠き、ぶっつけで挑んだ09年の高松宮記念は惜しくも2着。そしてセントウルS2着後に屈腱炎を発症して引退を強いられたが、それでも1200m通算は【9.3.0.0】の連対率100%、そして全9勝が1200m。歴史に名を残す「生粋の」名スプリンターだ。