ストーリー
スターホースに求められるのは、勝つことだけではない。常に主役としてスポットライトを浴び続けることも必要だ。
母ビワハイジはGIウィナー、兄のアドマイヤジャパンやアドマイヤオーラもクラシックで活躍。華やかな血統を持つブエナビスタはデビュー前から注目を集め、その期待通りにターフで躍動した。
最初につかんだのは2歳女王のタイトル。2008年の阪神ジュベナイルフィリーズは直線だけで一気のゴボウ抜きを決め、さらに2馬身半突き抜ける圧巻のレースだった。翌2009年・3歳シーズンも勢いは止まらない。桜花賞とオークスを連勝して春の牝馬二冠を達成。夏には札幌記念で古馬・牡馬とも渡り合えることを実証した。秋華賞は3着降着、エリザベス女王杯も追い込んで届かずの3着に敗れたが、いずれも鋭い末脚を披露。有馬記念の2着も、直線で敢然と抜け出す堂々のレースぶり。強さをアピールしてみせた。
2010年。後の天皇賞・春勝ち馬ジャガーメイルを完封した京都記念、名だたる強豪を相手にして力強く2着に追い込んだドバイシーマクラシック、大外から豪快に差し切ったヴィクトリアマイル、凱旋門賞で2着となるナカヤマフェスタと接戦を演じた宝塚記念。4歳になってもブエナビスタは、すべてのレースにおいて主役であり続けた。
秋には大願成就を果たす。アーネストリーやシンゲンといった年上の牡馬、あるいは3歳馬ペルーサらを降しての天皇賞制覇だ。中団から勢いよく伸び、後続を2馬身突き放した末脚には誰もが目を見張った。
ジャパンカップではその鋭すぎるラストスパートがアダとなり、1位入線も2着降着。有馬記念では好位から粘るヴィクトワールピサにハナ差及ばずの2着に甘んじたが、ブエナビスタは走るたびに喝采を巻き起こし、勝っても負けても、レースはブエナビスタを中心に動いたといえるだろう。
2011年、5歳シーズンを迎えてブエナビスタの走りに翳りが差す。ドバイワールドカップでは後方で行き場を失くして8着に敗退。生涯で初めての大敗を喫し、ヴィクトワールピサの偉業を見届ける役割に終わる。帰国初戦のヴィクトリアマイルでは、1歳下の三冠牝馬アパパネに敗れ、女王の座を明け渡すことになった。宝塚記念もアーネストリーの2着、天皇賞・秋では内に閉じ込められたまま4着。とうとうジャパンカップでは、デビュー以来19戦連続で守り通してきた1番人気の座(国内のレースのみ)を凱旋門賞馬デインドリームに譲るという屈辱も味わった。
だがブエナビスタは終わっていなかった。直線ではいつものように弾ける末脚を爆発させ、トーセンジョーダンをクビだけ差し切っての1着ゴール。6つ目のGI/JpnIタイトルをつかみ取ったのだ。
常にレースを沸かせ、期待に応える。ブエナビスタは天性のヒロインだった。