ストーリー
ひと口に「強豪」と言っても、ベストの条件でこの上ない強さを見せる馬もいれば、様々な条件で安定した強さを発揮する馬もいる。99年のジャパンCなどを制したスペシャルウィークは全17戦のうち着外は1回と、安定した強さでファンの信頼を得た強豪だった。
97年11月の新馬戦を勝利で飾ったスペシャルウィークは、500万2着を挟み、きさらぎ賞で重賞初制覇。さらに、最初の「3強対決」となった弥生賞でセイウンスカイ、キングヘイローを下しクラシックの最有力候補に浮上する。続く皐月賞はライバル2頭の前残りを許し3着も、1番人気で日本ダービーを迎えた。
皐月賞は道中後方から前を捕らえられずに終わったが、この日は中団10番手。3コーナー過ぎから徐々に前との差を詰めると、直線半ばで早くも先頭へ。そのまま後続に5馬身差をつける独走となり、鞍上・武豊騎手に初のダービーのタイトルをもたらすとともに、自身G1初制覇を飾ったのだった。
秋は菊花賞2着、ジャパンC3着に終わったスペシャルウィークだったが、古馬になり再び力を発揮する。まずアメリカJCCを圧勝し、阪神大賞典ではメジロブライトとの激しい叩き合いを制して2連勝。そして天皇賞(春)では、4コーナーで先頭に並ぶ積極策からセイウンスカイを競り落とし、メジロブライトの追撃も抑えて優勝。古馬になり3連勝、二冠馬と前年の覇者を力でねじ伏せ、いよいよ現役最強の座を手中にしたかと思われた。
ところが、春最後の宝塚記念では、前年の有馬記念を制したグラスワンダーの2着に敗れてしまう。3〜4コーナー中間で先頭に立ち横綱相撲で完封を狙ったが、ぴったりとマークしてきたグラスワンダーに直線坂下で交わされ、3馬身差をつけられたのだ。
さらに秋初戦、京都大賞典では生涯初となる着外・7着に敗退。抜群の安定感を誇ってきた馬がG2で「大敗」を喫したことはファンに大きな衝撃を与え、天皇賞(秋)ではデビュー以来始めて3番人気以下となる、4番人気という低評価に甘んじることとなった。
迎えた天皇賞(秋)は、前年のジャパンCから続いた先行策を捨て後方待機。軽快に飛ばすアンブラスモアまで4コーナー手前で約2秒、坂を上がっても6馬身。末脚勝負が裏目に出たかと思われた。しかし、残り200mを切り一気に前との差を詰めると、ゴール寸前で各馬をまとめて差し切って鮮やかな復活、そして春秋連覇。僅か2連敗、そしてたった1度の大敗ですら「復活」という言葉がふさわしい強豪の、見事な王座奪還劇となった。
続くジャパンCでも、天皇賞で取り戻した末脚を再び発揮。直線坂上で先頭に立つと“欧州最強馬”モンジューなど後続を完封し、改めてその強さをファンの心に印象づけた。
引退レース・有馬記念は、きっちり捕らえたかに見えたグラスワンダーに、わずか4cmの差で2着。しかし、この年のG1は5戦3勝2着2回。年度代表馬の座こそ欧州G1制覇を達成したエルコンドルパサーに奪われたが、99年の「古馬王道路線」で主役を演じ続けたスペシャルウィークの活躍も、決して色あせるものではない。