ストーリー
競走馬の成長曲線は早熟から晩成までさまざま。中には、早いうちから力を見せたように思われながら、実際に本領を発揮するのは年齢を重ねてから、という馬もいる。2011年の最優秀ダートホース・トランセンドはそんなタイプの王者だった。
トランセンドのデビューは3歳を迎えた09年の2月。芝で2着のあと、取消を挟んでダート戦で2連勝。再び芝に挑戦した京都新聞杯は9着に敗れたが、初の古馬相手となった新潟の1000万をレコード勝ち。さらに、この年新設の3歳重賞・レパードSでは、前年の2歳ダート王・スーニに3馬身差をつける完勝を収め、ダート4戦全勝で重賞制覇を飾った。
このまま一気にG1へと突き進むかと思われたトランセンドだったが、続くエルムSで4着に敗退すると、武蔵野Sでも6着に敗れて休養入り。翌春もオープン特別1勝にとどまり、G1優勝どころか、その舞台に立つことすらなく4歳秋を迎えてしまった。
秋初戦、船橋の日本テレビ盃は地元の雄・フリオーソに完敗の2着。しかし、G1好走実績を持つスマートファルコンやテスタマッタには先着し、ここからいよいよトランセンドが本領を発揮する。みやこSを鮮やかに逃げ切って1年2ヶ月振りの重賞勝ちを挙げると、続く初G1・ジャパンCダートは確固たる中心馬不在のメンバーもあって1番人気。ここでもハナを切ると、ゴール前強襲のグロリアスノアを抑えて、ついに念願のG1タイトルを手にしたのだ。
ひと息入れ、5歳の初戦は再びG1のフェブラリーS。3歳時の武蔵野S以来のマイル戦で芝からのスタートだったが、気合いを入れつつも先手を奪ってそのまま直線へ。代わる代わる迫るマチカネニホンバレやバーディバーディを振り切り、最後はフリオーソの追撃も1馬身半差の余裕を持って抑えてG1連覇。前年秋に後塵を拝したフリオーソに雪辱を果たし、堂々日本代表としてドバイへと乗り込むことになった。
ドバイ到着の翌日、日本では東日本大震災が発生。この年、ドバイワールドCに出走するヴィクトワールピサ、ブエナビスタ、そしてトランセンドには、例年にも増して大きな期待がかけられていた。そんな中、トランセンドは異国の地でも、いつも通りの自分の競馬、先行策。ヴィクトワールピサと日本馬2頭併走で直線に向くと、残り300mでヴィクトワールピサに交わされてからもしぶとく食い下がり、世界の強豪を抑えて2着を確保。不安視されたオールウェザーの馬場も克服し、歴史に残る日本馬によるワンツーフィニッシュを決めたのだった。
そして秋。震災の影響で東京競馬場で行われた南部杯はエスポワールシチーに先手を奪われ、本格化後初めて2番手追走を強いられたが、直線の追い比べを制してG1・3勝目。そしてジャパンCダートでは、大外枠から一気にハナを奪ってレース史上初の連覇を達成し、最優秀ダートホースのタイトルを手中にした。翌12年末の東京大賞典を最後に種牡馬入りしたトランセンド。そのスピードを受け継いだ産駒が、日本はもちろん、また世界を沸かせる走りを見せてくれることを期待したい。