ストーリー
オークス馬アグネスレディーは桜花賞馬アグネスフローラを生み、そのアグネスフローラと大種牡馬サンデーサイレンスとの間に誕生したアグネスタキオンはデビュー4連勝で皐月賞を制した。
米最優秀2歳牡馬クリムゾンサタンの子スカーレットインクは、名種牡馬ノーザンテーストとの配合でスカーレットブーケを生み、そのスカーレットブーケは重賞4勝をマーク。さらにスカーレットブーケは、ダイワルージュ、ダイワメジャーといった重賞ウィナーを送り出すことになる。この牝系からはダート王ヴァーミリアンも生まれた。
そして、アグネスタキオンとスカーレットブーケが交配され、ダイワスカーレットが生を受ける。血の優秀さが何より尊ばれる競走馬の世界にあっても、これほど豪華な血統の持ち主は、そう多くないだろう。その豪華さに見合うだけの活躍を示す馬となると、さらに数は少なくなるはずだ。
きらびやかな血筋に負けぬ競走成績を収めることに、ダイワスカーレットは成功した。
牡馬相手の2000m戦でデビュー勝ちを飾ると、中京2歳S戦ではアドマイヤオーラを完封。3歳初戦のシンザン記念ではアドマイヤオーラの雪辱を許し、チューリップ賞でも2歳女王ウオッカの末脚に屈したものの、大一番・桜花賞では逆にウオッカを封じ込める粘りで戴冠を果たす。
秋にはローズSを逃げ切り、秋華賞も完勝。古馬との初対戦となったエリザベス女王杯ではフサイチパンドラやスイープトウショウといった年上の牝馬たちを寄せ付けず、有馬記念では、兄ダイワメジャー、天皇賞馬メイショウサムソンといった牡馬一線級を相手に2着と大健闘。明け4歳初戦の産経大阪杯でも悠々の逃げ切り勝ちを演じてみせた。
走るたびにダイワスカーレットは、良血馬としての風格を身につけ、名牝としての存在感を放つようになっていったのである。
さらに圧巻だったのは、4歳の秋に臨んだ現役最後の2戦だ。
まずは天皇賞。脚部不安からの休養明け初戦、初めての東京コース、1000m通過58秒7のハイペースという絶対的不利なレースとなったのだが、直線でダイワスカーレットは粘りに粘った。外からウオッカとディープスカイ、馬群を割ってカンパニーが追い込んできたが、ダイワスカーレットも差し返すように伸びる。結果はウオッカのハナ差2着だったものの、その差わずか2cm。競馬史に残る大激戦を演じ、観る者に「負けてなお強し」の印象を強烈に残した。
そして有馬記念では、13頭を引き連れて先頭を駆け、追走した各馬のスタミナを完全に奪うペースで逃げ切って、堂々のGI4勝目をマークする。
ダイワスカーレットは、血統も、レースで示した能力も、いずれも間違いなく、現代日本を代表する存在であったといえるだろう。