ストーリー
確かに強い馬ではあるだろう。だが果たして、どう強い馬なのか? 多くのファンが、その馬=クロフネについて計りかねていたはずだ。そんな曖昧さを鮮やかに吹き飛ばしてみせたのが2001年の武蔵野Sだった。
当初、クロフネは天皇賞(秋)への出走を目標としていた。が、賞金不足で除外となり、やむなく前日の武蔵野Sに臨むことになる。初めてのダート戦、初めての古馬との対決。それでも1番人気に推されたクロフネだったが、レースを見守る眼は“半信半疑”というのが正直なところだったろう。
ところがクロフネは、驚異的なパフォーマンスを披露する。
中団外の位置取りから、3コーナーあたりで早くも加速。1000m通過57秒7というハイペースにもかかわらず、一気に仕掛けていく。そして直線では独走。1分33秒3という芝なみのタイムをマークして、クロフネは2着を9馬身も突き放してみせたのである。
ダート最強。武蔵野Sの圧勝で結論を得た“クロフネの強さ”だが、そもそもは芝志向の強い馬だった。
前年・2歳10月に迎えたデビューは芝のマイル戦。ここは僅差2着に敗れたが、続く芝2000m戦を完勝し、同じく芝2000mのエリカ賞でも後続に3馬身半差をつけて勝利する。
暮れのラジオたんぱ杯では、アグネスタキオンとジャングルポケット、後のクラシックホース2頭に遅れを取る3着だったが、明け3歳初戦・毎日杯では5馬身差の圧勝を飾り、NHKマイルCではとても届かないと思われた位置から豪脚を繰り出してのGI初勝利。この時点では「同世代の中で、特に芝のマイル戦では相当に強い馬」というのがクロフネの評価だったといえる。
が、日本ダービーはジャングルポケットの5着、秋初戦の神戸新聞杯でもエアエミネムの3着に終わり、その強さに疑問を持たれた状態で走ったのが武蔵野Sだったわけである。
そして、第2回ジャパンカップダート。武蔵野Sの圧勝を受けて、クロフネは単勝オッズ1.7倍の1番人気に支持された。米G1馬リドパレス、前年の勝ち馬ウイングアロー、交流重賞2連勝中のミラクルオペラ、フェブラリーSの覇者ノボトゥルーらが相手でも、クロフネなら勝利してくれるはず、そう考えられたのだ。
実際、クロフネは勝利するどころか、強豪たちを相手にすらしなかった。スタート直後は後方の位置取り、3コーナーで一気に仕掛け、直線入口では早くも先頭という強引なレース運び。それでも直線では独走を決め、2着に7馬身差、2分5秒9という驚異的なタイムを叩き出しての1着だ。
残念ながら右前浅屈腱炎のため、このレースが現役最後の一戦となってしまったクロフネ。もし無事なら「ダート世界最強」こそが、“クロフネの強さ”として記憶されることになったのではないだろうか。