ストーリー
阪神ジュベナイルフィリーズ、日本ダービー、安田記念連覇、天皇賞(秋)、ヴィクトリアマイル、そしてジャパンカップ。GI/JpnI計7勝という戦績を積み上げたウオッカは、まぎれもなく競馬史に燦然と輝く名馬の1頭だ。
だがウオッカは、単に記録だけが理由で愛されたわけではない。
1つには、鮮烈で、かつ「強い」と唸らされた勝ちっぷりがあげられる。
たとえば牝馬としては64年ぶりの優勝となった日本ダービー。直線の坂を力強く駆け上がり、粘るアサクサキングスを3馬身突き放した脚の、なんと逞しかったことか。
2008年の安田記念では、内からズドンと突き抜けて香港の雄アルマダに3馬身半の差をつけた。翌年のヴィクトリアマイルはブラボーデイジーを7馬身もちぎり捨てるという、GIではありえない完勝だった。
本当に強い馬だった。
いっぽうで、ギリギリの勝利、観る者の魂を揺さぶる熱戦も数多く披露してくれた。
2008年の天皇賞(秋)は、歴史に残る一戦だろう。二の脚を使って差し返すダイワスカーレット、ねじ伏せようとするウオッカ、そこへディープスカイやカンパニーも加わっての大激闘。この争いを、ウオッカはハナ差で制してみせた。
2009年の安田記念も凄まじかった。直線で前が開かず、これで終わりかと思われた瞬間、わずかな間隙を突いてグンと伸びるウオッカ。その驚異的な瞬発力に、誰もが圧倒されたものだ。
最後の勝利となったジャパンカップは、早めに抜け出し、オウケンブルースリの猛追をハナ差凌ぎきるという緊迫のレース。この馬の勝負根性を、あらためてファンが認識する一戦だったといえる。
本当にヒヤヒヤとさせ、かつ熱くさせる馬だった。
ただし、期待にこたえられないレースもまたウオッカはたびたび見せた。
3歳の身で挑んだ宝塚記念は、さすがに古馬の壁は分厚かったか8着に惨敗。その秋は秋華賞でも3着に敗れ、エリザベス女王杯は直前に出走取消だ。その後もジャパンカップ4着、有馬記念11着と負け続けた。
古馬になってからも、6着に終わった京都記念、エイジアンウインズに後れを取ったヴィクトリアマイル、スクリーンヒーローとディープスカイに差し切られたジャパンカップ、カンパニーに連勝を許した毎日王冠と天皇賞(秋)など、一度は負かした相手やライバルたちに叩かれることが多かった。
ワールドクラスの実力を秘めながら、海外への遠征は4戦して遂に未勝利。これもまたファンにとっては口惜しさの残る結果だ。
だが、そんなふうに完璧ではなかったからこそ、ウオッカは愛され、人々の印象に深く残り、観る者を熱くさせたのだろう。