ストーリー
父は大種牡馬サンデーサイレンス、姉はオークス馬ダンスパートナー、兄は菊花賞馬ダンスインザダークというピカピカの良血馬。社台サラブレッドクラブでの募集価格は6000万円と牝馬としては超高値に設定され、名門・藤沢和雄厩舎(美浦)へ入厩、デビュー戦に跨るのはオリビエ・ペリエ騎手。
期待するなというほうが無理。2003年に初出走を迎えたダンスインザムードは、そんな存在だったといえるだろう。
事実、ダンスインザムードは期待にたがわぬ走りを披露する。中山の2歳新馬戦を6馬身差で逃げ切ると、明け3歳初戦・若竹賞も2番手からきっちりと差し切る。さらにフラワーCでは、好位抜け出しからヤマニンアラバスタのマクリを完封して重賞初制覇。
そして桜花賞。1番人気に応えて2馬身差勝利を飾ったダンスインザムードは、デビュー4連勝で桜の女王の地位をしっかりと手にしたのである。
華々しい活躍から一転、そこからおよそ2年に渡って、ダンスインザムードは苦難の道を歩むことになる。
オークスはダイワエルシエーロに逃げ切りを許して4着、果敢に挑んだアメリカンオークスでは2着、秋華賞はスイープトウショウの豪脚に屈しての4着だ。
それでも天皇賞・秋ではゼンノロブロイの2着に踏ん張り、マイルCSではデュランダルの2着と健闘、世代トップ牝馬の意地を見せ、JRA賞最優秀3歳牝馬にも選出された。だが、この年の最終戦として走った香港Cで13着と初の大敗を喫すると、これがショックとなったか、4歳時のダンスインザムードは大スランプへと陥る。
京王杯スプリングCは9着、安田記念18着、クイーンCは8着、札幌記念12着、府中牝馬Sが8着。常に人気を裏切り、牝馬どうしの戦いでも掲示板にすら載らない敗戦を繰り返したのである。
もう終わったのか。誰もがそう感じ始めた頃、いまだ勝利への意欲を捨て去っていなかったダンスインザムードは、突如として全盛期の輝きを取り戻し始める。
天皇賞・秋でヘヴンリーロマンスからアタマ+クビ差の3着と善戦すると、マイルCSでも4着。5歳初戦のマイラーズCではダイワメジャーを追い詰める2着。完全復活間近の空気を漂わせて、第1回ヴィクトリアマイルへ進むことになったのだ。
それは、鮮やかで力強いカムバックだった。好位につけたダンスインザムードは、ゴールまで残り200mの地点で一気に先頭へ踊り出ると、そのまま後続をシャットアウト。さらに安田記念5着を挟んで再びアメリカへと渡り、キャッシュコールマイルで重賞制覇の偉業も成し遂げてみせる。
豪勢な血の中に潜む“勝利への意欲”が、苦しみ続けたダンスインザムードを見事に立ち直らせたのであった。