ストーリー
11年連続で中央競馬リーディングに輝いた偉大な種牡馬ノーザンテースト、その代表産駒の1頭が1983年のオークス馬ダイナカールだ。さらにダイナカールと凱旋門賞馬トニービンの間に生まれたエアグルーヴは、母子二代のオークス制覇を成し遂げ、天皇賞・秋を制し、ジャパンカップや有馬記念でも好走、年度代表馬に選出されるほどの名牝となった。
輝かしい成績を残して引退したエアグルーヴには、サンデーサイレンスが交配される。いうまでもなく、日本の競馬史を根底から変えた大種牡馬である。
こうして2000年に生まれた牝馬、いわば日本競馬史上屈指の良血馬であるアドマイヤグルーヴは、当然のように大きな注目を浴びて育った。セレクトセールに上場され、牝馬としては当時の国内最高価格となる2億3000万円で落札。この時点では、誰もがアドマイヤグルーヴの華やかな将来を信じて疑わなかったといえるだろう。
だが、苦難の道が待っていた。
決して弱い馬ではなかった。むしろ世代を代表する強豪牝馬の1頭に位置づけられる存在だった。2002年11月には無事にデビューを迎え、あっさりと勝利。2戦目のエリカ賞も、明け3歳初戦の若葉Sも制する。しかし、桜花賞では追込み及ばず3着、母子三代制覇を賭けて挑んだオークスでも最後方から差を詰めただけの7着に敗れる。秋になり、ローズSは快勝したものの、本番・秋華賞では2着惜敗。牝馬三冠をことごとく取り逃がす結果に終わってしまったのだった。
いつも目の前にいたのはスティルインラブだった。将来を約束されたはずのアドマイヤグルーヴを、大レースのたびにことごとくねじ伏せて牝馬三冠を達成した馬。その最大のライバルの引き立て役に、アドマイヤグルーヴは甘んじ続けたわけである。
ようやく主役と脇役の関係が逆転したのは、エリザベス女王杯でのことだった。
2003年・第28回エリザベス女王杯はスティルインラブとアドマイヤグルーヴの一騎打ちムード。実際、直線ではこの2頭が壮絶な叩き合いを演じた。先に抜け出したスティルインラブをアドマイヤグルーヴが交わせずに終わるのがこれまでのパターンだったが、この日のアドマイヤグルーヴは最後まで頑張り抜いた。最後はハナ差だけ差し切って、夢にまで見たGI初制覇。遂に祖母や母と並ぶGIウィナーの座に辿り着いたのである。
その後、スティルインラブは未勝利に終わったのに対し、アドマイヤグルーヴは生き生きと走り続けた。翌4歳シーズンにはマーメイドSを勝利し、エリザベス女王杯連覇も達成。5歳・3度目のエリザベス女王杯でも3着と意地を示し、阪神牝馬S優勝を花道にターフを去る。
繁殖に上がったアドマイヤグルーヴに寄せられるのは、もちろん、この優秀なヒロインの血統を次代へ受け継ぐことである。