ストーリー
父はリーディングサイアーのトニービン、母はオークス馬ダイナカールという血統に加え、見栄えのする馬体、調教での動きの良さ、そして走る馬特有の気性の強さ……。エアグルーヴは1995年にデビューを迎えた2歳の中でも屈指の期待馬だったといえるだろう。
戦績も、その期待に違わぬものだった。デビュー戦こそクビ差遅れの2着に甘んじたが、2戦目には後の重賞ウィナー・ダイワテキサスらを5馬身も引きちぎって圧巻の初勝利。いちょうSでは前が壁になる絶対的不利な状況から立て直して差し切り、初の重賞挑戦となった阪神3歳牝馬Sではビワハイジから半馬身差の2着と好走した。
年明け初戦のチューリップ賞では、そのビワハイジを逆転。好位から力強く抜け出し、あっという間に後続を突き放す。最後は5馬身差、力の違いを見せつける勝利を飾り、同期の牝馬の中ではナンバーワンの評価を獲得するに至ったのである。
桜花賞の勝利も確実視されたエアグルーヴだったが、直前に熱発を起こしたため回避。次走にはオークスが選択されることになった。
アクシデント明けでいきなりの2400m。いかにも苦しい条件だったが、それでも1番人気に支持されたことが、この馬の評価の高さを物語っている。そしてレースでは見事な走りで人気に応えてみせた。
7〜8番手の外、鞍上・武豊騎手にガッチリと手綱を引かれたエアグルーヴは、3コーナーからジワリジワリ、抑え切れないほどの手ごたえで進出していく。直線ではとてつもない勢いで坂を駆け上がって先頭へ。伸びやかなストライドでラスト200mを駆け抜け、大外を追い込んだ桜花賞馬ファイトガリバーを1馬身半完封する鮮やかな競馬で勝利。あらためてこの世代の頂点に立つ馬であることを実証するとともに、ダイナカールに続くオークス母娘制覇という偉業も成し遂げたのであった。
その後もエアグルーヴは、女王としての存在感を示し続けた。秋華賞はパドックのフラッシュに驚いてイレ込み、レース中の骨折もあって10着に敗れたが、翌4歳には鮮烈な復活劇。マーメイドSと札幌記念を連勝後、天皇賞(秋)をバブルガムフェローとの叩き合いの末に制する。天皇賞(秋)で牝馬が勝利したのはグレード制導入以降初のことだ。続くジャパンカップでもピルサドスキーのクビ差2着と健闘し、有馬記念では3着。牡馬と互角以上の戦いを繰り広げたことで、この年の年度代表馬に選出されることとなった。
翌5歳時にも重賞2勝をあげたほか、宝塚記念3着、ジャパンカップ2着などターフを沸かせ、引退してからもエリザベス女王杯連覇のアドマイヤグルーヴら素質ある子どもを送り出し続けている。
競走馬としても繁殖牝馬としてもエアグルーヴは、まさに名牝と呼ぶにふさわしい存在である。