ストーリー
1986年、桜花賞、オークス、エリザベス女王杯と各レースのトライアル、計6戦をすべて1番人気で制したメジロラモーヌが「能力の違い」で大偉業を達成したとするなら、それから17年後の2003年、桜花賞、オークス、秋華賞をすべて2番人気で勝ったスティルインラブは「勝負強さ」の馬だったといえるだろうか。
サンデーサイレンスを父に持ち、兄に重賞ウィナーのビッグバイアモンがいる血統のスティルインラブは、早くから期待された存在だった。2歳11月の新馬戦では好位から抜け出して3馬身半差のデビュー勝ちを果たし、3歳初戦の紅梅Sは出遅れながら差し切ってみせた。チューリップ賞は力のいる馬場に苦しんでクビ差2着に敗れたが、まずは期待通りの滑り出しで、3歳牝馬クラシックへ駒を進めることになったのだった。
そのクラシックロードで、スティルインラブを迎え撃ったのがアドマイヤグルーヴ。父はやはりサンデーサイレンス、母は女傑エアグルーヴ、祖母はオークス馬ダイナカールという良血で、セレクトセールでは2億4150万円もの高値をつけた馬だ。新馬、エリカ賞、若葉Sと牡馬を破ってのデビュー3連勝を果たし、母娘3代オークス制覇の夢を託されることになった存在である。
が、スティルインラブはこの難敵を三冠レースでことごとく打ち破っていく。
第一冠・桜花賞はスティルインラブの完勝だった。好位から1馬身半抜け出したスティルインラブは、追い込んだアドマイヤグルーヴを3着に封じて先頭でゴールを駆け抜ける。
オークスではさらに差を広げた。アドマイヤグルーヴが7着に敗れたのに対し、スティルインラブは力強い差し脚を見せての勝利。どちらが真のヒロインなのか、誰の目にも明らかだったはずだ。
秋初戦のローズSでは、アドマイヤグルーヴが雪辱する。好位から伸びあぐねて5着に終わるスティルインラブを、アドマイヤグルーヴは豪快に突き放して1着。とうとう主役交代のときが訪れたかに思われた
しかし本番・秋華賞では、鮮やかにスティルインラブがヒロインの座を奪い返した。ともに中団に控えた2頭だが、先に動いたのはスティルインラブだ。3コーナー過ぎから早くもポジションを上げていき、直線では大外をスパートした。すぐ後ろからアドマイヤグルーヴが猛然と迫ったものの、これに追いつかせず、粘るヤマカツリリーをゴール前で差し切って、スティルインラブが勝利する。
三冠すべてで、アドマイヤグルーヴが1番人気、スティルインラブが2番人気。そんな素質あふれるライバルを、みたびねじ伏せて牝馬三冠を達成したスティルインラブは、まさに“勝負に強い”馬だったといえるのではないだろうか。