セレクトセール2022 藤田晋氏インタビュー

Chapter3 何週間も走る馬がいないのは堪えます

馬主としてのこの1年を振り返っていただくと、現3歳世代の所有馬5頭は全てデビューして勝利、そしてジャングロがニュージーランドTを優勝という、素晴らしい成績でした。

藤田氏 ジャングロはずっと、「1200mの馬だし、葵Sを目標にしましょう」と言っていたはずなのですが、森先生は隙あらば距離を延ばそうとしてくるのです(笑)。だからニュージーランドTも「大丈夫かな?」と思っていたのですが、勝ったので驚きました。でももっと驚いたのは、後日送られてきた実際のトロフィーの大きさですね。

ジャングロ

ジャングロ

ジャングロは、その次走でNHKマイルカップに出走して7着でした。

藤田氏 東京競馬場で見ていましたが、逃げると聞いていたので、ゲートで出遅れた時点で“終わった”と思いました。ところがものすごい勢いで追い込んできて。面白かったですね。あの追い込みを見られただけで大満足です。

ジャングロの主戦は武豊騎手ですが、起用する騎手について要望などはお伝えしますか?

藤田氏 今のところ何も言ったことはないですね。勝つために最善の選択をしていただいている限り、お任せしています。四位洋文調教師が、「馬ごとに、合うジョッキー、合わないジョッキーがいる」とおっしゃっていて、そういうのは、もう僕にはわかりませんからね。

現在のところ所有馬はほとんど栗東所属ですが、理由はあるのでしょうか?

藤田氏 東西のことは考えず調教師の先生を決めていったら、結果的にそうなったというだけです。そのせいで、中京も含めて関西へ行く機会はずいぶん増えました。あまり行っていると暇だと思われるかもしれませんが(笑)。馬主の先輩から「重賞の口取りにはいなければダメだ」と言われて、できる限り行くようにしています。

牡馬と牝馬の割合では牡馬が圧倒的に多いですが、その理由は?

藤田氏 それも偶然です。今のところ僕は、繁殖牝馬を持って配合、生産をすることは考えていないので、あまり意識していないという感じです。

実際に馬主になってみて、初めて味わった悩みなどはありますか?

藤田氏 悩みというか、まだ所有馬が少ないために1頭も走らない週がかなりあるので、それがつらいです。毎週走ってほしいですね。特に期待した馬が負けた後は、すぐに次の馬が走ってくれれば悔しさも紛れるのに、と思いますよ。

藤田晋氏

けっこう、引きずられる方なのですね。

藤田氏 引きずりますね。エゾダイモンのデビュー戦(6月4日、4着)なんて、勝つに違いないと思い込んでいたので、そこからしばらく走る馬がいないのは堪えました(笑)。

エゾダイモンもそうですが、この後は昨年のセレクトセールで購入された2歳馬が続々とデビューしますね。

藤田氏 デビュー前の馬は成長過程でいろいろと起きるということも、この1年で知りました。特に入厩する頃になると、もう山の天気みたいに毎週、状況が変わりますから。「すごくいい感じです」と言っていたのが、「やっぱり疲れが出たので放牧します」とか。そのたびに喜んだり、がっかりしたり、一喜一憂させられています。

所有馬の情報のチェックはどのようにされているのですか?

藤田氏 調教タイムはJRA-VANで見ています。調教師さんから「今日の調教はこうでした」と連絡が来た時には、もう自分で見ていて知っているということもあるくらいですよ。

実際になってみてわかった馬主の楽しさというものはありますか?

藤田氏 新馬戦は、やっぱり楽しみになりましたね。セールの答え合わせ的な意味で、自分が買えなかった馬もすごく気になります。

すごい! すっかり馬主生活を楽しまれていますね。

藤田氏 馬主のできることには限りがありますけど、日々の餌代とか輸送コストなどは全部把握できますし、最終意思決定の権限があるという意味で、株式投資などより面白いと言えるかもしれません。

馬主が大事にすべきことを一つ挙げるとしたら、何でしょうか。

藤田氏 「人」ですかね。僕は別に本業があるので、専門家とお互いに敬意を持った良い関係をいかに作れるかが大事だと感じています。幸い、僕はこの1年でそういう関係者のコミュニティーに入れてもらうことができました。みんな、競馬という同じコアな趣味を持つ仲間という感じで、本当に楽しくやれています。

Chapter4 今年のセールは昨年よりマークされるでしょう

さて、いよいよ7月11日(月)、12日(火)に迫った「セレクトセール2022」についてお伺いします。まずは頭数など、大まかな目標はありますか?

藤田氏 頭数は、昨年ほどにはならないと思いますが、まだ決めていません。そうは言っても2年目なので、昨年に引き続き、しっかりとした体制作りを意識した購入の仕方になると思います。用意している金額は、もちろん秘密です(笑)。

体制というのは、各世代の頭数のことですね。

藤田氏 そうです。各世代に期待できる馬が何頭もいるような状態を毎年作れるようにしたいですね。セレクトセールは、僕のような新興馬主がそういう体制を作れる最大のチャンスですから。

2年目ということで、昨年の知見を生かす部分はありますか?

藤田氏 昨年は、本当にうまくいったという感覚です。僕と同じような買い方をする方にとって、僕はたぶん、とても謎だったと思うのですよね。そんな僕にいろいろと意表を突かれた昨年に比べるとマークはされるでしょうし、今年はそこが違うと思います。

藤田晋氏

他に、セールに臨むに際して気にされていることはありますか?

藤田氏 全体的な景況感みたいなものは気にしています。また、日本の馬がこれだけ世界で活躍していますし、そこへきてこの円安ですから、海外のバイヤーは結構怖いかなと。

昨年以上に、全体的な価格が上昇する可能性もあるのでしょうか。

藤田氏 そうは言ってもセレクトセールの価格はもともと非常に高いですからね。僕もできれば安く買えたほうがうれしいです。

具体的な馬選びはどのように進められていますか?

藤田氏 実は、つい先日、下見に行ってきました。下見をしたことで、予算を増やしたい感覚になっていますね。あまりに魅力的な馬が多いぶん、分散して買いやすくなるかもしれないという期待もありますが。

気になった種牡馬などはいますか?

藤田氏 下見では、ブリックスアンドモルタルの産駒がすごく良く見えましたね。馬格があってかっこいい馬が多いと感じました。今はディープインパクトとキングカメハメハの産駒がいないため、群雄割拠である意味面白いですよね。新種牡馬は、昨年もそうだったのですが、これが全部良く見えるのですよ、不思議なことに(笑)。

藤田さんの目指す馬主像のようなものがあれば、教えてください。

藤田氏 僕が目指しているものは明確で、金子真人さんや野田順弘さん、里見治さんのような“大馬主”です。でも1年見てきて、馬主にも本当にいろいろな方がいるということを知りました。少ない頭数で楽しまれている方、出走回数を重視される方、地方競馬がメインの方。リステッドを勝つことをベースに、生産する馬と購入する馬の組み立てを考えているという方の話を伺ったりもしました。本当にいろいろですね。

セールに対する姿勢も、「人」によって違うということなのですね。

藤田氏 そうです。僕は僕なりのビジョンに基づいた買い方をしていますが、誰もが同じ馬ばかりを狙っているわけではなく、逆に僕がまったく対象にしていない馬でも、他の方にとっては狙い目になっている、ということを知りました。それによって資金配分や資金効率などの戦略は変わりますし、セールにはそういう面白さもあると思います。

藤田晋氏

では最後に、今後の目標のようなものがあれば教えてください。

藤田氏 僕はもともと日曜のテレビの競馬中継をよく見ていて、あそこで話題になるような馬を持てたらいいなというのが、昨年の漠然とした目標でした。それはある意味、もうかなってしまったので、次は「何かGIを勝ってみたい」という気持ちが生まれています。それが今の目標ですね。

注記:当コンテンツの取材は、2022年6月15日に行っております。
注記:金額は、全て税抜金額

ライタープロフィール

軍土門隼夫(競馬ライター)

競馬雑誌編集者を経てフリーとなる。『優駿』『Number』などに寄稿。
近著に『衝撃の彼方 ディープインパクト』(三賢社)