ストーリー
競馬界には1頭の牝馬から大きく発展したファミリーがある。日本にアーモンドアイをもたらしたベストインショウ、ヌレイエフやサドラーズウェルズらの大種牡馬を残したスペシャル、ガリレオとシーザスターズを産んだアーバンシーなどは世界的に知られるところで、日本にも「華麗なる一族」のイットー、自身を含め数々のオークス馬やダービー馬を輩出したダイナカール、産駒が次々と種牡馬入りしたシーザリオなどがいる。
2019年1月、北海道安平町のノーザンファームで父キングカメハメハ、母ローザブランカから生まれたスタニングローズの牝系は、1990年代初期にフランスから輸入されたローザネイに遡る。バラの花にちなんだ華やかな名前の活躍馬が多く出現したことから、いつしか「薔薇一族」と親しまれるようになった。
数多くの重賞勝ち馬を輩出してきた薔薇一族にあって、スタニングローズのG1レース2勝は母の弟ローズキングダムと並び最多(2024年現在)。ただ、2位入線からの繰り上がりが1つある叔父に対し、スタニングローズの2勝は自力という点で評価に値する。
薔薇一族の馬は活躍の一方で小兵が多く、そのせいか大舞台で勝ち切れない課題を抱えていたが、スタニングローズは馬格に恵まれ、デビューも世代最初の新馬戦が組まれる2歳6月の第1週と早かった。3週後の2戦目で勝ち上がってからは重賞で足踏みしたものの、明け3歳初戦の自己条件で2勝目を挙げると、続くフラワーCで重賞の壁を突破してオークスに駒を進めた。しかし、曾祖母ロゼカラーが4着、祖母ローズバドは2着に泣いた舞台でスタニングローズも2着に敗れ、四半世紀に及ぶ一族の因縁からは逃れられなかった。
それでも、夏を越して始動戦の紫苑Sを制したスタニングローズは、オークスの上位3頭が再び相まみえた秋華賞を正攻法で快勝。鞍上の坂井瑠星騎手とともに待望のG1初制覇を飾り、曾祖母が3着、祖母も2着と一歩及ばなかった秋華賞で負の連鎖を断ち切った。
ところが、この勝利を境に右肩上がりだったキャリアが一転する。次戦のエリザベス女王杯で見せ場なく大敗すると、4歳で脚部不安に見舞われるなど2年間で5戦しかできない状態に陥った。しかし、このまま終わってしまっても不思議のない5歳秋、2年ぶりに挑んだエリザベス女王杯で不死鳥の如く復活を遂げる。好位から早め先頭の形を作って完勝したスタニングローズは、祖母ローズバドがハナ差の2着に泣いた一族の記憶を清算した。そして、使命を果たしたように次走の有馬記念で引退。貴重な血を次代につなげるため繁殖生活に入った。