ストーリー
競馬の歴史上、活躍馬の少ない地味な血統から突如として出現した名馬は少なからずいる。しかし、ソダシが身にまとった白毛は1万頭〜2万頭に1頭の確率で誕生するといわれる遺伝上の紛れもない突然変異。奇跡の始まりは日本のサラブレッド生産頭数が年間1万頭を下回った1996年に遡る。
白毛が誕生する遺伝的メカニズムは解明されておらず、それは「突然変異」としか説明されていない。ただ、2018年3月に北海道・安平町のノーザンファームで誕生したソダシは、芦毛の父クロフネに対し、母ブチコも白毛で母系から特殊なエッセンスを受け継いでいた。ソダシの曾祖母ウェイブウインドは鹿毛で、その産駒6頭のうち5頭も鹿毛か黒鹿毛だったが、後にシラユキヒメと命名される1996年生まれの初仔が白毛だった。
シラユキヒメは中央競馬で9戦未勝利だったが、繁殖入りすると子出しも良く産駒10頭が中央競馬での実戦を経験。特筆すべきはそのうち9頭が白毛だったことで、3番仔のユキチャンは2008年の関東オークス(川崎)で日本初の白毛馬による重賞制覇を成し遂げた。生まれることさえ稀な白毛馬が、デビューにこぎつけるだけでも難しい競走馬の世界で活躍するとなれば、その確率はさらにゼロへと近づいていく。ところが、ソダシら孫の代で血の勢いはさらに増すことになった。
シラユキヒメの9番仔ブチコから生まれたソダシは2020年7月にデビューすると、2戦目には札幌2歳Sを制し、白毛馬として初の芝の重賞制覇を果たす。3戦目もアルテミスSで重賞連勝、さらに阪神ジュベナイルフィリーズでは世界初の白毛馬によるG1制覇を成し遂げ、歴史の扉を次々と開きながらJRA賞最優秀2歳牝馬に輝いた。
2歳女王となったソダシは桜花賞に直行し、無傷の5連勝でクラシック制覇。次戦のオークスは距離が長く初黒星を喫したが、夏の札幌記念では古馬を撃破して巻き返し、この年もJRA賞(最優秀3歳牝馬)を受賞した。4歳初戦のフェブラリーS(3着)ではダートの一線級と互角に渡り合い、続くヴィクトリアマイルで3年連続のG1制覇を達成。それが最後の勝利となったが、秋のマイルCS(3着)、5歳のヴィクトリアマイル(2着)と、脚部不安により引退するまで国内屈指のマイラーとして活躍し続けた。
引退後は生まれ故郷のノーザンファームで繁殖入りし、白毛ファミリーの発展に期待を寄せられている。毛色こそ異なるものの全妹のママコチャはスプリンターズSを制覇、白毛のいとこハヤヤッコも芝とダートで重賞勝ちと牝系は代を経るごとに活力を増しているように、その可能性も大いにありそうだ。