ストーリー
かつて、史上最強の2歳馬(現表記)として認識されていたのはマルゼンスキーだった。新馬、いちょう特別、府中3歳S(当時の表記)、そして朝日杯3歳Sと、いずれも本気を出さないまま4連勝してみせた1970年代の名馬である。
それから約20年。マルゼンスキーと並ぶ評価を得る馬が現れた。1997年デビューのグラスワンダーである。
こちらは圧勝の連続だった。新馬戦は2着を軽く3馬身突き放し、3着馬はさらに6馬身後ろという楽勝ぶり。2戦目でのアイビーSでは差してなお2着を5馬身もちぎり捨ててみせた。京成杯3歳Sでは単勝オッズ1.1倍の断然人気に推され、2着争いに1秒差、6馬身もの差をつける大楽勝だ。
仕上げは朝日杯3歳S。着差こそ2馬身半にとどまったが、1分33秒6という驚異的なレコードタイムをマークする。
こうしてグラスワンダーは“史上最強の2歳馬”という称号を勝ち取ったのである。
当然、翌年の活躍も期待されたグラスワンダー。だが骨折のため春シーズンを棒に振ってしまい、秋に復帰してからも毎日王冠ではサイレンススズカから1.5秒も遅れての5着、アルゼンチン共和国杯では次々に差されて6着と不甲斐ないレースを続けた。早熟だったのか。そんな声も聞かれたほどだった。
ようやく鮮やかな復活を遂げたのは、暮れの大一番・有馬記念のことだった。
復帰後2戦とは打って変わって力強い脚取りを見せたグラスワンダーは、中団からジワリと進出し、女傑エアグルーヴやステイゴールドを突き放すと、直線では逃げ粘る二冠馬セイウンスカイもあっさりと交わし去る。春の天皇賞馬メジロブライトの追い込みを2分の1馬身振り切っての1着ゴールだ。
およそ1年ぶりとなる勝利を難敵ぞろいのグランプリで飾って、グラスワンダーは最強馬の地位をふたたびその手に取り戻したのである。
翌シーズンもグラスワンダーは、宝塚記念と有馬記念、2つのグランプリを勝利する。そのレースぶりには、確かに最強馬の風格が漂っていたといえるだろう。
まずは宝塚記念。安田記念で2着に敗れていたグラスワンダーは2番人気に甘んじ、1番人気の座を得たのは、春の天皇賞を制し、凱旋門賞遠征も視野に入れていたスペシャルウィークだった。ところがグラスワンダーは、直線で並ぶ間もなくスペシャルウィークを差し切っての3馬身差1着。スペシャルウィーク陣営を失意の底に叩き落し、遠征を断念させたほどの力強い勝利だった。
有馬記念でもスペシャルウィークとの叩き合いをハナ差制しての勝利。グランプリ3連覇の偉業を成し遂げる。判定写真から算出された両者の差はわずか4cmに過ぎなかったが、そのドラマチックな結末こそ、まさしく最強馬だけに許された勝利だったといえるのではないだろうか。