ストーリー
惜敗続きに闘志を挫かれる馬もいれば、それを飛躍の糧とする馬もいる。
ヒルノダムールは間違いなく後者だ。
早くから期待された存在だった。1番人気で迎えた2歳秋の新馬戦こそアリゼオのクビ差2着に敗れるが、2戦目では後続に3馬身の差をつけて初勝利。ラジオNIKKEI杯2歳Sでも、ヴィクトワールピサ、コスモファントム、ダノンシャンティといった素質馬と渡り合って4着に差してきた。
明けて3歳となっても好調をキープ。若駒Sではルーラーシップを突き放して2勝目をマークし、若葉Sはペルーサと半馬身差の2着。そして第一冠・皐月賞では、後方グループから直線だけで前をゴボウ抜き、メンバー中最速となる3ハロン推定35秒フラットの末脚を繰り出して2着まで追い込む。
レベルが高いといわれるこの世代でもトップクラスの実力を持つ存在として認識されるようになっていったのだった。
ここからヒルノダムールの苦難は始まる。
3番人気で臨んだ日本ダービーは9着。速すぎる上がりの競馬に対応できず終わる。
札幌記念は4着。中団から差を詰めたがアーネストリーに押し切られてしまった。
菊花賞も中団から伸びきれず3番人気で7着。グっとメンバーが楽になったはずの鳴尾記念でも、同世代のライバル・ルーラーシップを捕まえきれず2着に甘んじる。
古馬になっても惜敗は止まらず、日経新春杯ではまたもルーラーシップの2着に敗退。京都記念では、これまた同い年のトゥザグローリーに振り切られて3着にとどまる。
ようやく光が差したのは産経大阪杯。逃げるキャプテントゥーレを交わしにかかるヒルノダムール。そこへエイシンフラッシュ、ダークシャドウ、ダノンシャンティらが追い込んでくる。GI級の相手と壮絶な叩き合いを、ヒルノダムールはハナ差で制し、レコードタイムまで叩き出したのである。
遂に本格化し、念願の重賞初制覇を遂げたヒルノダムール。その勢いは次走・第143回天皇賞(春)でも衰えることはなかった。
逃げるゲシュタルト、1周目で押し上げたコスモヘレノス、さらにトゥザグローリーがハナを奪い、向こう正面ではナムラクレセントが先頭へ。入れ替わりの激しい流れを、ヒルノダムールは好位から中団の内で息を潜めながら追走する。直線では馬群の間から抜け出すと、内のナムラクレセントを交わし、外エイシンフラッシュとの競り合いも半馬身制してゴールへと飛び込む。悲願だったGIタイトルの獲得だ。
この後は7戦して未勝利に終わったが、フランスでフォワ賞2着、凱旋門賞への挑戦など、強い世代を支える一角として立派な足跡を残した。天皇賞(春)勝ち馬ではあるが、スタミナではなく、諦めない心の強さで盾獲りに成功した、そんな存在だといえるのではないだろうか。