ストーリー
1987年に種牡馬生活をスタートさせた無敗の三冠馬シンボリルドルフ。その初年度産駒として誕生したのがトウカイテイオーだ。
さすがは皇帝の血を受け継ぐ者。持ったままで4馬身ちぎる圧勝デビューを飾ったトウカイテイオーは、その後もシクラメンS、若駒S、若葉Sと勝利を重ねる。
皐月賞も、また圧巻。18番枠スタートの不利などどこ吹く風、3コーナーから悠々と馬群の大外をマクっていき、直線入口で早くもトウカイテイオーは先頭に立つ。そして、懸命に追いすがるシャコーグレイドをあしらうように1着でゴールへと達したのである。
日本ダービーも大外20番枠からの発走となったが、結果はまたもトウカイテイオーの独壇場だった。直線の坂を駆け上がりながら先頭へ躍り出ると、そこで鞍上・安田隆行はようやく追い出しを開始。たちどころに後続を突き放し、父に続く無敗のダービー制覇を成し遂げたのだった。
当然のようにトウカイテイオーには「親子二代で無敗の三冠馬」という、とてつもない夢が託された。が、夢は夢のまま、たちどころについえる。日本ダービーのレース中に骨折していたことが判明、長きの休養を強いられることになったのだ。
復帰戦は4歳の春、産經大阪杯。ここを楽々と勝利したトウカイテイオーに、今度は新たな対決ストーリーが託された。当時、古馬の絶対王者として君臨していたメジロマックイーンとの天皇賞(春)での激突だ。
が、メジロマックイーンが堂々の勝利を果たしたのとは対照的に、1番人気に推されたトウカイテイオーは失速して5着、生涯初の敗戦を喫する。しかも、2度目の骨折。休養明けの天皇賞(秋)では7着に敗れ、続くジャパンカップを勝利して親子制覇を達成したものの、有馬記念では11着大敗。さらに3度目の骨折……。
競走馬としての圧倒的な能力と引き換えに、この馬にこれほど多くの不運を背負わせたのは、競馬の神様か、それとも悪魔だろうか。
しかしトウカイテイオーは、自力で不運をはねのけてみせる。丸1年ぶりのレースとなった有馬記念。ターフの主役はすっかり入れ替わり、1番人気はビワハヤヒデ、2番人気はレガシーワールド、3番人気はウイニングチケット。この一戦でトウカイテイオーは奇跡の走りを披露するのだ。
直線に入って早々と先頭に立ち、ゴールを目指すビワハヤヒデ。そこへ背後からトウカイテイオーが襲いかかる。3着以下を3馬身半も引き離して繰り広げられたデッドヒートを、最後は2分の1馬身制して、優勝はトウカイテイオー。中363日という常識はずれの復活劇だった。
感動に包まれる中山競馬場のスタンド。皇帝から帝王へ。受け継がれたのは競走能力だけでなく、こうして観る者を身震いさせる高貴な存在感だったのかも知れない。