関係者インタビュー Vol.03

藤沢 和雄調教師

「“1勝より一生"を最後まで」

数々のG1馬を育てた名伯楽が、2022年2月で定年を迎える。JRA通算1,500勝を達成し、日本競馬界の常識を変えたパイオニアである藤沢師に、有力馬の秋の展望、そしてこれまでの調教師人生を振り返ってもらった。

取材・文 平松さとし(取材日:9月15日)

「グランアレグリアは手がかからない馬」

天皇賞(秋)へ向かうグランアレグリア。(Photo by Kazuhiro Kuramoto)

まずはこの秋のG1戦線について伺わせてください。天皇賞(秋)へ向かうグランアレグリアはノドの手術を行ったのですよね?

藤沢調教師(以下、「」のみ)「そうですね。ただ、軽度の症状だったので難しい手術ではありませんでした。9月中には帰厩して天皇賞の頃には充分に仕上がるはずです」

大阪杯では敗れてしまいましたが、再度2000mに挑むことになります。1ターンの東京コースなら違う結果を見込めるという見解でしょうか?

「大阪杯はスタミナを必要とする馬場になって負けてしまいました。それでも折り合いはついていたし、そもそも(1200mの)スプリンターズSを勝たせてもらったものの、競馬ぶりは決して上手ではありませんでしたよね。そういう意味で1600mから短くなるよりは長くなった方が良いと思っています。暑い夏はしっかり休ませて、ちょうどいい始動ができると思います。おっしゃる通り1ターンの東京なら違う結果が期待できるでしょう」

すでにG1を5勝もしていますが、改めてグランアレグリアの長所はどんなところにありますか?

「2歳戦からトップクラスで走っていたのに、古馬になった現在もまだ前向きさを失わずに走ってくれていますよね。牝馬で長い期間こういったレベルで走れる馬はそうそういません。過去にも走る牝馬は何頭もやらせてもらったけど、そういった馬達と比較してもグランアレグリアは手がかからず、厩舎としては特に苦労をしていません」

来年2月に定年する藤沢厩舎には期待の2歳馬も沢山入厩している。(Photo by Kazuhiro Kuramoto)

天皇賞(秋)次第とは思われますが、その後のプランはおおよそ決まっていますか?

「1600mに戻すのか、天皇賞の競馬ぶり次第ではもっと長いところという可能性もないとは言えないでしょう。まずは天皇賞を見てからですね」

春に権利を取りながらもダービー出走を見送り休養したキングストンボーイも、この秋期待の一頭ですが?

「タイプは違いますが、シンボリクリスエスは青葉賞(G2)をもっと楽に勝ったのにダービーでは2着に負けました。キングストンボーイは青葉賞の2着でやっと権利を獲ったけど、ダービーとなると皐月賞組がもっと楽な臨戦過程で出てくるわけだから、そうなると勝ち負けするのは難しいと判断しました。もちろん素晴らしい馬なので、無理しなければもっと大成できる。将来を考えると、(ダービーに)出すだけということはしたくなかったのです」

実際、無理しなかったことが良い方へ向いた感触はありますか?

「春と違って古馬と併せても良い動きをしていますね。また、兄姉もそうだったみたいですが、以前は気性面で少し難しいところがありました。そんな精神面の成長が見られ、落ち着いてきています。順調ですので今後に期待できそうです」

また、来年2月に解散する厩舎にこれだけ沢山の2歳馬が入ることは、異例だと思います。藤沢調教師に対する信頼というかリスペクトが感じられますが、ご自身ではどう思われますか?

「馬を大事に育ててくれる調教師だと思ってくれているのだとすれば、ありがたい話ですね。育成係として頑張ります(笑)」