「その馬の最高にたどり着くための試行錯誤がモチベーション」

2021年もコントレイルをはじめ、G1優勝を狙える有力馬への騎乗が見込まれる。(Photo by Getty Images)

まだまだ引き出せるものがありそうですか?

「引き出すというか、馬自体が変化しているので、それがどう走りに反映されていくのかなというところですね。本質的にはマイラーだとしても、これまで操縦性を高めるレースをしてきたので、2000mを使うぶんには何も問題はないと思っています」

話題は変わって、4月はいよいよクラシックG1の幕開けです。今年も有力視される馬にたくさん騎乗されていますが、牡馬・牝馬ともに力関係はどう見ていらっしゃいますか?

「昨年はコントレイルとサリオスが皐月賞の前から抜けていることは分かっていましたけど、今年は牡馬、牝馬どちらも絶対的な存在がまだいないイメージですね」

昨年に続いてクラシックでの連覇も期待されますが?

「牡馬も前哨戦でダノンザキッドが負けましたし、牝馬もソダシが2歳チャンピオンですけど力の差が大きいわけではないので、現時点では混戦なんじゃないかと思います。本番では僕の騎乗する馬だけではなく、どの馬にもチャンスがある状況だと思いますよ」

続いては、過去のパートナーについて。2月にはシーザリオの残念なニュースがありました。競走馬としての現役時代は短かったですが、福永騎手にとってどんな存在でしたか?

「シーザリオはやっぱり特別な存在でしたね。この馬となら、世界中のどこに行っても結果を出せるんじゃないかと初めて思わせてくれた馬でした。動脈が破裂して亡くなったと聞いて、どんなに苦しかっただろうと胸が痛みました。でも、一番つらい思いをしたのは、自分なんかよりも現場でシーザリオのお世話をしていた人。そういう人のことを思うと、本当に残念でなりません。どうか安らかに眠ってほしい。今はそれだけですね」

福永騎手とともに日米オークス制覇を成し遂げたシーザリオ。(Photo by Kazuhiro Kuramoto)

また、福永騎手や藤原英昭調教師も「一番印象に残っている馬」としてよくお話されるシルバーステートが、今年いよいよファーストクロップを送り出してきます。改めて、シルバーステートにはどんな思い出がありますか?

「とにかく規格外のエンジンを持っていた馬でした。排気量の大きさでいうと、今まで乗った馬のなかで間違いなく一番で、その評価はコントレイルと出会った今でも変わりません。シルバーステート自身はそのエンジンに体がついていけなかったですが、その武器が産駒にどう伝わっていくのか、すごく楽しみです。馬産地の評判もいいようですし、重賞未勝利馬なのに種付け頭数もかなりの数ですからね。本当に楽しみにしています」

福永騎手ご自身の今後についても伺っていきたいのですが、3月21日終了現在、2426勝。2500勝という数字が近づいてきていますが、ご自身の記録についてはどういう意識がありますか?

「正直、まったく関心がないですね(笑)。今は、競走馬そのものにすごく興味があって、生涯を通して、その馬の最高にたどり着くための試行錯誤がモチベーションになっています。実際に馬の変化を感じるのは楽しいですからね。若いときは、リーディングや勝ち星といった数字を意識していましたが、今はこの仕事をしている目的が根本から違います。だから、自分の記録に関しては二の次になっていますね」