「最も勝ちたいレースは凱旋門賞」

オークス馬ラヴズオンリーユーは2021年初戦を快勝。(Photo by Kazuhiro Kuramoto)

ラヴズオンリーユーは、海外レースは初挑戦になります。

「前走後も何も問題なく来ているし、距離的にも良いと思います。鞍上はオイシン・マーフィー騎手を予定しています。ジャスティンもサウジアラビアから転戦するので、わたしも現地へ行くつもりです。ただ、そうなると帰国後は自主隔離のために大阪杯へ行けなくなってしまうのですが、その点は前田オーナーも理解してくださいました」

矢作調教師のドバイといえばやはりリアルスティール(2016年ドバイターフ優勝)ですが、19年にはリスグラシューでコックスプレートも優勝。海外遠征で成功できる要因は何だとお考えですか?

「最初の頃はなかなか勝てない遠征が続きました。それでも諦めず挑戦し続けたことで経験を積めたのは大きかったと思います。スタッフも7割くらいは海外を経験しており、馬が初遠征でも人はそうでないケースが増えてきました。普段と違う環境の現地でのケアや情報共有といった点でもスタッフが慣れているのはアドバンテージになります」

経験が生きた例として具体的にありましたか?

「リスグラシューが初めて香港へ行った時はイレ込んでしまったけど、スタッフが経験豊富だったので、ウォーキングマシーンに入れたら落ち着きました。1頭だけで行っていたから普通に考えるとマシーンに頼る必要はないのですが、臨機応変に対応してくれました。設備を把握していたことを含め、経験則から機転をきかせられたのだと思います」

上からの指示ではなくて、スタッフの判断だったのですね?

「そうです。勿論、最初からではないですが、今では自分達で判断して色々な意見をあげてきます。たまに首を縦に振れないこともありますが、逆に感心させられることも多々あります。私の方が勉強させてもらっていますよ(笑)」

豪G1コックスプレートを制覇したリスグラシュー(中央)。(Photo by Getty Images)

海外遠征を決断する判断材料、また日本馬が海外で活躍するために必要なことは何だとお考えですか?

「まずは純粋に能力がないとダメです。それと大きな補助金がない現在、馬主さんのことを考えると招待レースでないと厳しいというのもあります」

JRA入りする前から海外での経験もある矢作調教師ですが、日本のトップトレーナーとなった現在、日本と海外の競馬の違いは何だとお考えですか?

「国によって各々違うので、ひと言では難しいけど、日本は内厩制というのが特徴的でしょうね。香港もそうですけど、馬房数など厩舎的には制限がある反面、ファンに対しては公正に情報を提供できる。日本のファンはとくにデータを重視される方が多いので、そんな気質にも内厩制は向いていると思います」

騎手や調教師などホースマンの違いについてはどう感じていますか?

「日本は世界レベルにあると思います。何も卑下する必要はないでしょう。ただ、だからと言って海外研修が無駄とは思いません。違うシステムを見て、知るために海外へ行くのは良いことです。自分の中で引き出しが増えれば、様々な不測の事態に対処できるようになります。これは自分も経験して切実に感じているので、今後も色んな角度から海外競馬には関わっていきたいと考えています」

話は変わりますが、ダート路線ではモズアスコットこそ引退しましたが、まだ楽しみな馬が控えていますね?

「ダノンファラオ、マルシュロレーヌ、それにジャスティンも国内外、中央、地方を問わず、条件が合うところへは積極的に挑戦したいです」

すでにダービーも有馬記念も海外G1も勝利していますが、最も勝ちたいレースは何ですか?

「天皇賞も勝っていないけど、1つ選ぶなら間違いなく凱旋門賞です。今では皆よく挙げるけど、私はかなり昔から言っていますよ。大昔、メジロムサシが出た頃、ラジオで聞いたのが最初だと思います。その頃からの憧れですね。欧州調教馬以外勝っていないレースなので、これを打ち破る最初の調教師になりたいと思っています。もっとも、まだゲートインもしたことがないけど、チャンスのある馬に巡り合えたら是非、挑戦したいです」