ストーリー
その名が呼び込んだかのように濃密でドラマチックな競走生活を送ったキズナ。父ディープインパクト、母キャットクイル(母の父ストームキャット)、半姉にはG1レース3勝のファレノプシスを持ち、北海道・新冠町のノースヒルズで誕生した青鹿毛馬はデビュー前から大きな期待を背負っていた。
キズナが1歳の誕生日を迎えて間もなく、東日本大震災が発生。「絆」を合言葉に国民一丸で復興へ向かう中、その輪に加わるようにキズナはデビューした。2歳10月から無傷の2連勝をキズナだが、2勝目を挙げた後、パートナーの佐藤哲三騎手が落馬事故で重傷を負ってしまう。3戦目から武豊騎手に手綱が移ったが、ラジオNIKKEI杯2歳S、3歳初戦の弥生賞とクラシックへの登竜門で連敗。弥生賞の内容から中山競馬場の適性を疑った陣営は、皐月賞を見送ってダービー一本に目標を絞り、毎日杯から京都新聞杯を連勝して大舞台に進んだ。
日本ダービーでは1番人気で迎えられたキズナは、レースでは最後方に近い位置から馬群の中を進出。直線では狭い進路に間一髪のタイミングで突っ込み、先に抜け出したエピファネイアを最後の二、三完歩で差し切った。武豊騎手にとってはキズナの父ディープインパクトで制した2005年以来、8年ぶり5度目のダービー制覇。落馬事故を機に苦しい時間を過ごしてきた名手は、キズナとの縁で復活を遂げた。
秋は凱旋門賞を目指してフランス遠征を敢行する。その年のダービー馬が凱旋門賞に挑むのは史上初。斤量が有利な3歳での参戦に加え、英ダービー馬ルーラーオブザワールドを抑えて前哨戦のニエル賞も勝ち、期待は高まっていった。本番では前年から2年連続2着となるオルフェーヴルに先んじて直線に入り、大きな見せ場を作ったものの4着。それでも、凱旋門賞に挑んだ歴代の日本調教馬の中では優秀な結果を残した。
帰国後は半年の休養を経て4歳初戦の産経大阪杯を快勝したが、結果的にこれが最後の勝利となった。次戦の天皇賞(春)で4着に敗れるとレース後に骨折が判明。5歳春に復帰するも勝利を挙げることはできず、秋には浅屈腱炎により引退が発表された。