ストーリー
3歳牝馬にとって春「二冠」といえば桜花賞とオークスだが、800m差という壁は厚く、桜花賞を完勝しながらオークスでは距離に泣いた馬も数多い。しかし、96年にNHKマイルCが創設。牡馬相手にはなるものの、マイラータイプの馬にとっては選択肢が大きく広がった。05年、史上初めて桜花賞とそのNHKマイルCを連覇したのがラインクラフトだ。
ラインクラフトのデビューは04年秋。芝1400m新馬戦を5馬身差で圧勝すると、ファンタジーSも好位追走から楽々と抜け出して4馬身差の完勝を収めた。続く阪神ジュベナイルフィリーズは単勝1.5倍の断然人気。しかし4コーナーで外に振られ、内をすくったショウナンパントル、アンブロワーズの3着と初の敗戦を喫してしまう。ただ、勝ち馬との着差はアタマ+ハナ。G1制覇は逃したが、そのレース内容からも世代トップとの評価を下すファンも少なくなかった。
明けて3歳を迎えたラインクラフトは、桜花賞トライアル・フィリーズレビューで始動する。直線の坂で4〜5頭が横に広がる大接戦となる中で遅れを取っていたが、ゴール前で一気の伸びを見せて2つめのタイトルを獲得。この勝利で、桜花賞は断然人気に推されるものと思われた。しかし、フィリーズレビューの翌週、後のオークス馬・シーザリオがフラワーCを制して無傷の3連勝。桜花賞は僅差の2番人気で迎えることとなった。
当時の阪神芝1600mは、1コーナーポケットからのスタート。不利と言われる外枠・17番を引いたラインクラフトだったが、二の脚速く2コーナー手前で5番手へ進出し、大きな距離損なく好位確保に成功する。そのままスムーズに流れに乗ると、直線残り200mでデアリングハートを捕らえて先頭へ。ゴール前ではシーザリオの強襲をアタマ差でしのぎ切り、見事に「一冠」桜花賞を獲得したのだった。
桜花賞を手中に陣営は、次の目標にNHKマイルCを選択した。距離不向きでも「牝馬同士なら」とオークスへ進む馬が多かった中で、桜花賞馬の出走は創設後初めて。牡馬相手が果たしてどう出るか、ファンも半信半疑でペールギュントに続く2番人気の評価にとどまった。
しかし、終わってみればこの選択は大成功だった。4番手を楽に追走したラインクラフトは、直線半ばでラチ沿いから一気に抜け出し、デアリングハートに1馬身4分の3差をつけて快勝。桜花賞−NHKマイルCの「変則二冠」を達成したのだ。
その後、秋は秋華賞2着、そして古牡馬相手のマイルCSでも3着好走。翌年は高松宮記念でも2着となるなど力を見せていたが、夏に放牧先での調教中に心不全を発症して急逝。NHKマイルCが最後のビッグタイトルとなってしまった。しかし、07年にはピンクカメオが桜花賞14着からNHKマイルCが優勝。今後は、ラインクラフトが拓いた道を歩む桜花賞馬も必ずや登場してくるに違いない。