ストーリー
偉大な名馬が誕生すると、その近親にあたる繁殖馬が大挙して輸入されるケースも珍しくない。しかし、そういった馬の産駒がすべて活躍するとも限らないのもまた競馬である。そんな中、ビワハヤヒデ・ナリタブライアン兄弟の従妹として大きな期待を背負って誕生したファレノプシスは、彼らに劣らぬ活躍を見せた名牝だった。
ファレノプシスは父ブライアンズタイム、母キャットクイルという血統で、母はビワハヤヒデ・ナリタブライアンの叔母にあたる輸入牝馬。デビューはナリタブライアン引退の翌年にあたる97年11月で、阪神ダート1200m戦を当時の2歳レコードで9馬身差の圧勝。2戦目のさざんか賞では、初芝も難なく克服して2馬身半差で連勝すると、年が明けて98年の初戦・エルフィンSも1馬身4分の1差で無傷の3連勝。文句なしの桜花賞候補に数えられるようになった。ところが、その前哨戦・チューリップ賞では出遅れなどもあってダンツシリウスの4着に敗退。一転して桜花賞は混戦模様で迎えることとなった。
98年の桜花賞は、重賞連勝中のダンツシリウスが1番人気で3.8倍、そしてクイーンCを制したエイダイクインが3.9倍の僅差で続き、ファレノプシスは前走の敗戦が嫌われ6.2倍の3番人気にとどまっていた。しかし、横一線のスタートから好位につけたファレノプシスは、直線で馬場の中央に持ち出すと一気の伸び。残り100mで先頭に立つとそのまま押し切り、まるで前走の敗戦などなかったかのような完勝で一冠目を手中に収めたのだった。
続くオークスは、後方から直線でもうひと伸び足りず、一歩先に抜けたエリモエクセル、そして並んで追い込んだエアデジャヴーにも及ばず3着に敗退してしまう。しかし、秋は初戦のローズSを快勝すると、秋華賞では中団追走からまくり気味に進出。3コーナーでは早くも4番手の外、そして4コーナーでは先頭に並びかけるという、同世代の牝馬同士なら力が違うと言わんばかりの競馬でナリタルナパーク以下をねじ伏せ、見事に二冠を達成。この年の最優秀4歳牝馬(現3歳牝馬)に選出された。
しかし、翌99年のファレノプシスは体調不良などが重なり、5戦して札幌記念の2着が最高の成績に終わってしまう。続く00年もマイラーズC10着、札幌記念7着と結果を残せないまま、引退レースのエリザベス女王杯に出走した。
不振続きながら3番人気に推されたファレノプシスは、5〜6番手のインを追走。3コーナーの坂の下りから徐々に前との差を詰めると、直線では2頭並んで抜け出していたトゥザヴィクトリー、フサイチエアデールを目標に強襲。最後はフサイチエアデールとの激しい叩き合いを半馬身差で制し、2年振りの勝利で引退の花道を自ら飾ったのだった。
G1・3勝の実績、そして血統背景から繁殖牝馬としても大きな期待がかけられていたファレノプシスだが、09年までにデビューした産駒6頭中5頭が勝ち上がるという期待通りの好結果を残している。しかも産駒はいずれも牝馬。この牝系が日本にしっかりと根付き、さらなる活躍馬を輩出してくれるのは間違いなさそうだ。