ストーリー
史上6頭目の三冠牝馬として競馬史に名を残したデアリングタクトは、父エピファネイア、母デアリングバード(父キングカメハメハ)を両親に、北海道・日高町の長谷川牧場で2017年4月に誕生。同期生が5頭という小さな牧場の出身で、当歳時にはセールで主取りに終わるほど目立たなかったが、やがて世代の中心から華やかに歴史を作っていった。
当歳時に買い手が現れなかったデアリングタクトだが、その後に育成が進みセレクトセール1歳馬セールに上場されると1200万円で落札され、杉山晴紀厩舎から2歳11月のデビューにこぎつけた。初陣では2番人気と評価も高く、中団追走から一瞬にして馬群を抜け出し快勝。続く3歳初戦のエルフィンSも後方3番手から4馬身突き抜けて頭角を現した。
この2勝だけで桜花賞のゲートにたどり着いたデアリングタクトだが、デビューと前後して世界的に拡大した新型コロナウイルスの影響により、せっかくの舞台は無観客。天気も優れず馬場状態は経験のない重まで悪化し、瞬発力で連勝してきたデアリングタクトには不安の募る状況となる。それでも、2歳女王レシステンシアに次ぐ2番人気の支持を受けると、馬場を苦にすることもなく豪快に差し切り。40年ぶり史上3頭目となる3戦目での桜花賞制覇を達成し、杉山師には初G1、父エピファネイアにも初重賞のタイトルを贈った。
ワンサイドの勝利から続くオークスは単勝1.6倍の圧倒的な人気を集めるも、レースは苦しいものとなった。4番枠のデアリングタクトは馬群の中で厳しいマークを受け、外に出せないまま直線の残り300m付近で内に開いた進路からようやくスパート。万事休すの場面を持ち味の瞬発力で鮮やかに逆転し、1957年のミスオンワードから63年ぶり2頭目となる無敗での牝馬二冠を達成する。牝馬のウオッカがダービーを制した際は64年ぶりで騒がれたが、それに匹敵する稀な記録を過去から呼び起こした。
無事に夏を越したデアリングタクトは、ぶっつけ本番で秋華賞に臨んだ。勝てば史上初となる無敗での牝馬三冠。体重はオークスから14kg増とかつてないほど増加していたが、間隔を開けながら使ってきた厩舎の判断に間違いはなく、春の二冠とは比較にならない盤石の内容でついに誰もなし得ていない偉業を達成した。
次戦のジャパンCでは2歳上の三冠牝馬アーモンドアイ、同世代の牡馬クラシック三冠馬コントレイルとの三冠馬対決に挑み3着。初黒星を喫することにはなったが、三冠馬3頭によるハイレベルな決着の実現に貢献してJRA賞最優秀3歳牝馬を受賞した。
しかし、4歳以降は右前肢の繋靭帯炎で1年余りの休養を要すなど勢いを失い、現役続行の意思を持って迎えた6歳では繋靭帯炎を再発。白星に恵まれないまま引退し、北海道・新ひだか町の岡田スタッドで繁殖入りすることになった。