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第1345回 追悼 稀代の万能性を誇ったキングカメハメハを回顧する
2019/8/19(月)
8月10日、キングカメハメハが前日の夜に死亡したことが報じられた。7月9日に体調不良のため種牡馬を引退し、余生を送ることが明らかになったばかりだったが、それからわずかに1カ月。先だってのディープインパクトに続く悲報となってしまった。今回はこの名馬が残した偉大な蹄跡をデータとともに回顧したい。データ分析にはJRA-VAN DataLab.とTARGET frontier JVを利用した。
■表1 現役時代の成績
日付 | レース名 | 条件 | 人気 | 着順 | 騎手 |
2003年11月16日 | 新馬 | 芝1800m | 1 | 1 | 安藤勝己 |
12月13日 | エリカ賞・500万下 | 芝2000m | 1 | 1 | 武豊 |
2004年1月18日 | 京成杯・G3 | 芝2000m | 1 | 3 | D.バルジュー |
2月29日 | すみれS | 芝2200m | 1 | 1 | 安藤勝己 |
3月27日 | 毎日杯・G3 | 芝2000m | 2 | 1 | 福永祐一 |
5月9日 | NHKマイルC・G1 | 芝1600m | 1 | 1 | 安藤勝己 |
5月30日 | 日本ダービー・G1 | 芝2400m | 1 | 1 | 安藤勝己 |
9月26日 | 神戸新聞杯・G2 | 芝2000m | 1 | 1 | 安藤勝己 |
※表1は、競走馬としてのキングカメハメハの成績をまとめたもの。2003年11月のデビュー戦を勝利で飾ると、出世レースとして知られるエリカ賞も制し、2歳時を2戦2勝で終える。3歳初戦の京成杯で結果的に生涯唯一の敗戦となる3着に敗れたものの、オープン特別のすみれSですぐさま巻き返し、続く毎日杯で重賞初勝利を飾る。
普通なら、次走は牡馬クラシックの一冠目となる皐月賞。ところが、管理する松田国英調教師は1600mのNHKマイルCから2400mのダービーを目指すローテーションを重視しており、クロフネとタニノギムレットでは叶わなかった夢をこの馬に託す。そして、NHKマイルCを5馬身差で圧勝すると、ダービーでも2着のハーツクライをはじめとする強豪を下して「変則二冠」を見事に達成。余談になるが、この年のダービーは5月ながら真夏のような暑さで、カメハメハ大王には実にふさわしい一日だと思ったものである。
夏を越し、秋は古馬路線への参入を選択した。復帰戦の神戸新聞杯を危なげなく勝ち、天皇賞・秋へ向かって順調そのものにも思われたが、2週前に屈腱炎を発症。これにより1年たらずの現役生活に終わったものの、その中身は非常に濃いものだった。
■表2 中央G1を制したキングカメハメハ産駒
馬名 | 生年 | 中央G1勝利 |
アパパネ | 2007 | 09年阪神JF、10年桜花賞、オークス、秋華賞、11年ヴィクトリアマイル |
ローズキングダム | 2007 | 09年朝日杯FS、10年ジャパンC |
ロードカナロア | 2008 | 12年スプリンターズS、13年高松宮記念、安田記念、スプリンターズS |
ベルシャザール | 2008 | 13年ジャパンCダート |
ホッコータルマエ | 2009 | 14年チャンピオンズC |
ラブリーデイ | 2010 | 15年宝塚記念、天皇賞・秋 |
レッツゴードンキ | 2012 | 15年桜花賞 |
ドゥラメンテ | 2012 | 15年皐月賞、日本ダービー |
リオンディーズ | 2013 | 15年朝日杯FS |
ミッキーロケット | 2013 | 18年宝塚記念 |
レイデオロ | 2014 | 17年日本ダービー、18年天皇賞・秋 |
競走馬として抜群の能力を示したキングカメハメハだが、より成功したのは種牡馬として、と言っても過言ではない素晴らしい成績を収めている。表2は中央のG1を勝った産駒をまとめたもので、上から世代順、世代が同じ場合はG1を勝った順に並べている。
初年度産駒の2006年生まれからはG1馬が出なかったが、2世代目からは史上3頭目の牝馬三冠馬アパパネ、ジャパンCを制したローズキングダムという大物2頭が登場。続く3世代目からは、年度代表馬にも輝く名スプリンターのロードカナロアが出た。中央G1のみを対象とした表2には載っていないが、日本馬が勝つのは不可能とさえ言われた香港スプリントを連覇した偉業は永遠に語り継がれるだろう。
以降も連綿と活躍馬を送り出し、2015年の二冠馬ドゥラメンテ、現役のレイデオロなど牡馬のチャンピオン級も輩出。芝だけでなく、史上初のG1(Jpn1を含む)10勝を達成したホッコータルマエという砂の王者も出している。そのほか、海外ではルーラーシップ、地方交流ではタイセイレジェンド、ハタノヴァンクールがG1を制覇。3000m級の長距離G1で未勝利という点を除けば、ほぼすべてのジャンルでG1馬を送り出しており、種牡馬としての万能性は日本競馬の歴史上でも屈指となっている。
■表3 キングカメハメハ産駒とディープインパクト産駒の距離別成績(平地戦のみ)
種牡馬 | 馬場 | 距離 | 着別度数 | 勝率 | 連対率 | 複勝率 | 単回率 | 複回率 |
キングカメハメハ | 芝 | 1000m〜1300m | 120- 115- 112- 955/1302 | 9.2% | 18.0% | 26.7% | 59% | 71% |
1400m〜1600m | 257- 271- 242-2099/2869 | 9.0% | 18.4% | 26.8% | 75% | 84% | ||
1700m〜2000m | 453- 366- 360-2863/4042 | 11.2% | 20.3% | 29.2% | 80% | 78% | ||
2100m〜2400m | 101- 80- 86- 682/ 949 | 10.6% | 19.1% | 28.1% | 93% | 79% | ||
2500m〜 | 31- 29- 36- 271/ 367 | 8.4% | 16.3% | 26.2% | 110% | 79% | ||
ダート | 1000m〜1300m | 110- 90- 99- 882/1181 | 9.3% | 16.9% | 25.3% | 99% | 81% | |
1400m〜1600m | 140- 158- 178-1269/1745 | 8.0% | 17.1% | 27.3% | 58% | 85% | ||
1700m〜2000m | 523- 434- 392-3174/4523 | 11.6% | 21.2% | 29.8% | 89% | 81% | ||
2100m〜2400m | 43- 41- 39- 276/ 399 | 10.8% | 21.1% | 30.8% | 101% | 99% | ||
2500m〜 | 1- 1- 0- 6/ 8 | 12.5% | 25.0% | 25.0% | 73% | 177% | ||
ディープインパクト | 芝 | 1000m〜1300m | 95- 92- 56- 685/ 928 | 10.2% | 20.2% | 26.2% | 64% | 68% |
1400m〜1600m | 555- 511- 427- 2717/ 4210 | 13.2% | 25.3% | 35.5% | 68% | 78% | ||
1700m〜2000m | 883- 716- 637- 3768/ 6004 | 14.7% | 26.6% | 37.2% | 72% | 77% | ||
2100m〜2400m | 189- 160- 139- 830/ 1318 | 14.3% | 26.5% | 37.0% | 85% | 85% | ||
2500m〜 | 29- 41- 36- 281/ 387 | 7.5% | 18.1% | 27.4% | 61% | 74% | ||
ダート | 1000m〜1300m | 17- 19- 17- 206/ 259 | 6.6% | 13.9% | 20.5% | 75% | 73% | |
1400m〜1600m | 25- 36- 37- 336/ 434 | 5.8% | 14.1% | 22.6% | 33% | 67% | ||
1700m〜2000m | 113- 106- 114- 929/1262 | 9.0% | 17.4% | 26.4% | 68% | 70% | ||
2100m〜2400m | 9- 11- 15- 86/ 121 | 7.4% | 16.5% | 28.9% | 46% | 99% | ||
2500m〜 | 2- 1- 0- 1/ 4 | 50.0% | 75.0% | 75.0% | 277% | 142% |
表3は、上半分がキングカメハメハ産駒の距離別成績を芝・ダート別で示しており、下半分には比較対象としてディープインパクト産駒の同様のデータを掲載した。集計期間は、両種牡馬とも産駒が初めて中央競馬で走った日から2019年8月11日までとなっている。
前項でキングカメハメハの万能性について触れたが、それはこの表を見ても大いに納得できる。芝・ダート、距離を問わず、どの区分でも安定した好走率を記録しており、明確な苦手条件は見当たらない。細かく見ていけば多少の得手不得手はあり、たとえば芝では2500m以上の好走率がもっとも低く、前述した3000m以上でG1未勝利というのもこのデータを見ると納得できる。あるいは、逆にダートでは1000〜1300mの好走率が若干低い様子も垣間見える。
しかし、下のディープインパクトと比べると、キングカメハメハがいかに条件を選ばず走っているかが理解できるだろう。ディープインパクトの場合はダートで明らかに好走率が下がるし、芝でも短距離戦は数値が低調だ。もちろん、これはディープインパクトの非ではなく、得意条件、苦手条件で成績に差があるのは普通のことで、キングカメハメハの万能性を際立たせるためにご登場願った次第である。1歳違いながら競走馬としては直接対決が実現しなかった2頭の種牡馬によるハイレベルな争いは、この先もしばらくは目の当たりにすることができる。今まで以上に注意深く、産駒たちの活躍を見守っていきたい。
■表4 キングカメハメハの後継種牡馬
産駒デビュー年 | 馬名 |
2016年 | スターウォーズ |
ルーラーシップ | |
2017年 | ローズキングダム |
ロードカナロア | |
2018年 | トゥザグローリー |
ベルシャザール | |
2019年 | ケイアイドウソジン |
タイセイレジェンド | |
トゥザワールド | |
ハタノヴァンクール | |
2020年 | クリーンエコロジー |
ドゥラメンテ | |
ホッコータルマエ | |
ミュゼスルタン | |
ラブリーデイ | |
リオンディーズ | |
2022年 | ウエスタンパレード |
ミッキーロケット | |
ヤマカツエース | |
レーヴミストラル |
最後に、キングカメハメハの血を受け継ぎ、広める役割を果たしていく後継種牡馬たちを紹介しよう。後継種牡馬として最初にG1馬を送り出したのがルーラーシップで、初年度産駒のキセキが17年の菊花賞を制し、今年の秋は凱旋門賞への出走も予定している。ほかにも17年のクラシックをにぎわせ、古馬になってG2を2勝したダンビュライトや、今年の小倉記念まで重賞3連勝中の上がり馬メールドグラースなどがおり、着々と実績を積み重ねている。
そして、このルーラーシップをも上回る活躍を見せているのがロードカナロアだ。牝馬三冠に加えてジャパンC、ドバイターフを制した超大物のアーモンドアイを出したのはご存知の通りで、初年度産駒からはステルヴィオもG1を勝利。2世代目にもサートゥルナーリアという大物が出た。すでに成功を収めているが、父およびディープインパクト亡き生産界でかかる期待はますます大きいものがある。
また、来年は二冠馬ドゥラメンテのほか、ホッコータルマエ、ラブリーデイ、リオンディーズなどの初年度産駒がデビューを予定。その後にデビューを控えるミッキーロケット、ヤマカツエース、レーヴミストラルなどにはサンデーサイレンスの血を引かないという共通項があり、これは現在の繁殖牝馬の傾向を考えると大きなアドバンテージとなる。これらの活躍次第では「キングカメハメハ系」が日本競馬における次代の主流となる可能性も十分にあるのではないだろうか。
ライタープロフィール
出川塁(でがわ るい)
1977年熊本県生まれ。上智大学文学部卒業後、出版社2社で競馬専門誌、競馬書籍の編集に携わり、2007年からフリーライターに。「競馬最強の法則」「サラブレ」「優駿」などへ寄稿するほか、出版社勤務時代を含めて制作に関わった競馬書籍は多数。馬券は単勝派だが、焼肉はタン塩派というわけではない。メインの競馬のほか、サッカーでも密かに活動中。