1歳世代の注目種牡馬
今年の1歳市場、当歳市場では、ディープインパクトやキングカメハメハの他にも、初年度産駒のデビューを控えた種牡馬の産駒たちがそろいました。その中には、ポスト・ディープインパクト、ポスト・キングカメハメハとなるような存在もいそうですね。では、1歳市場に上場される、この世代が初年度産駒の種牡馬について、話を聞かせてください。
キタサンブラック
キタサンブラックですが、先日、顕彰馬にも選定されました。
徳武氏 「うれしいことですね。キタサンブラック自身は古馬になって大成した芝の中長距離の大物という印象があるので、2歳戦の早い時期からの勝ち上がりを期待される現在の生産界では、自身の実績からするとまだ物足りない種付頭数と言えるのかもしれません。それでも、せりに上場される産駒たちは、父を彷彿とさせる好馬体の持ち主がそろっています」
昨年のインタビューでは、「キタサンブラック自身が祖父のサンデーサイレンスを拡大コピーしたような馬体」というコメントがありました。
徳武氏 「産駒もまた、皮膚が薄くて皮下脂肪の付きにくい、いかにもアスリートといった体型の馬が多く見られます。産駒の身のこなしの良さや、軽さのある動きも、サンデーサイレンスの直系といった印象を受けますし、キタサンブラック自身が長い距離をバテずに走り抜けたのも納得がいくところです。芝の大物が欲しいと考えられている方にはうってつけの産駒と言えますし、今年も活発な取引が期待できそうです」
ドレフォン
昨年の当歳市場にも上場されたドレフォンの産駒ですが、今年も1歳市場には12頭、当歳市場にも8頭が上場されています。
徳武氏 「ドレフォン自身は見るからにスプリンター体型なのですが、父系、母系に配されてきた種牡馬には距離適性の幅が見られ、マイルから中距離をこなせる血統背景となっています。例えばロードカナロアがそうですが、現役時に短距離で活躍したスプリンター色の強い種牡馬でも、競走成績、血統構成とスタミナに秀でている繁殖牝馬に配合すると産駒の距離適性が広がっていくので、ドレフォンの産駒も距離を問わない活躍が期待できそうです」
昨年、当歳市場で取引された初年度産駒からは、2億5000万円(税抜)の高額落札馬(アドマイヤセプターの2019)も誕生しました。
徳武氏 「評判馬が多かったこともありますが、13頭が上場されて、そのうち12頭が落札されたという実績も素晴らしいと思います。先日、せりに上場される1歳馬たちを見てきましたが、脚元がしっかりとした馬が多く、1歳となり、より競走馬に近づいた姿からしても、昨年以上の白熱した取引が期待できそうです」
イスラボニータ
フジキセキ産駒では唯一のクラシックウイナー(皐月賞)であり、現役時は2回コースレコードを更新したスピード馬がイスラボニータです。
徳武氏 「どちらかと言えば小柄な馬体ですが、大きなストライドで常に一生懸命に走ってくれていた印象があります。やや器用さに欠ける面があり、不利があると取りこぼすレースもありましたが、ポテンシャルの高さは疑いようがありません」
フジキセキの後継種牡馬は、サンデーサイレンス系種牡馬の中でも、生産地の信頼度が高い印象を受けます。
徳武氏 「イスラボニータの母の父であるCozzeneもまた、世界中の生産界でアベレージヒッターと認識されています。イスラボニータ産駒の多くには、父の骨格の良さだけでなく、柔らかい動きも遺伝していて、それは歩かせるとさらに際立ちます。1歳、当歳共に好馬体をした丈夫な産駒がそろった印象がありますし、仕上がりも早そうです。長く競馬を楽しみたいというオーナーを喜ばせてくれるのではないのでしょうか」
サトノアラジン
ディープインパクトの後継種牡馬となるサトノアラジンですが、昨年の当歳市場では4頭の上場馬が全て落札されるという優秀な売却成績を残しました。
徳武氏 「ディープインパクト産駒のトップマイラーとしての評価を与えられていますが、伸びやかな馬体を見ていると、むしろ距離がもちそうな印象がありました。しかしながら、産駒は豊かな後駆の筋肉にも証明されているように、がっしりとした馬体をしていて、見るからにスピード能力の高さを感じさせています」
産駒の体型は、父の競走成績のイメージに合致したわけですね。
徳武氏 「母系(母の父)に入ったStorm Catが出ているのかもしれませんが、初年度産駒の馬体を見て、生産者の皆さんもマイル色の強さを感じ取ったのではないのでしょうか。今年の当歳市場に上場される産駒たちが、まさにそのイメージ通りの馬体をしています。1歳市場の上場馬も、数は少ないものの父の特徴がよく出ていますし、今年も確実なセールスが期待できそうです」
ロゴタイプ
ロゴタイプは2歳時から活躍し、朝日杯フューチュリティSを優勝。3歳春には 皐月賞も制し、さらに古馬になってからは安田記念を勝利と、息の長い現役生活を送りました。
徳武氏 「これも、ロゴタイプ自身の伸びやかで欠点のない馬体の作りが、丈夫さへとつながったのでしょう。せりの上場頭数は多くはありませんが、父の馬体の良さだけでなく、大人しくて扱いやすい性格も受け継いでいます」
来年、デビューを迎える産駒は、父のように芝のマイルを中心とした活躍が期待できそうですね。
徳武氏 「マイル向きのスピードは遺伝されると思いますし、ロゴタイプ自身は唯一のダート戦(根岸S)で結果を残せませんでしたが、産駒の頑強な印象からしても、ダートもこなしてくれそうな多様性を感じます。来年デビューの産駒はセール出身馬だけでなく、クラブの募集馬などにも楽しみな馬がそろっていますので、ファンの方はそちらにも注目してください」
ライタープロフィール
村本浩平(競馬ライター)
北海道在住の“馬産地ライター”として、豊富な取材をもとに各種競馬雑誌で活躍中。