ストーリー
日本を代表する歌手の北島三郎さん(名義は有限会社 大野商事)が所有し、競馬界の枠を超えて注目を集めたキタサンブラック。“最強馬”ディープインパクトの全兄で、その血筋を買われて種牡馬入りしたブラックタイドを父に、サクラバクシンオー産駒のシュガーハートを母に北海道・日高町のヤナガワ牧場で生まれ、350万円で取り引きされた牡馬は、3年間の競走生活でG1レース7勝、歴代最高(当時)の18億7684万3000円を稼ぐスターへと飛躍した。
キタサンブラックは明け3歳の1月31日と、クラシック出走には猶予のない時期にデビューした。その初陣では中団から直線の追いくらべを制す非凡なセンスを披露。皐月賞には無傷の3連勝でこぎつけて3着も、差し返しにいく勝負根性を発揮して大きな見せ場を作った。5戦目のダービーこそ大敗を喫したが、秋の菊花賞では内ラチ沿いから巧みに馬群を縫ってG1初制覇を飾る。次戦の有馬記念も3着に粘走。ただ、G1を含む重賞3勝と大活躍の1年ながら、不思議なことに単勝人気はデビュー戦の3番人気が最高だった。
明け4歳を迎えると堅実な走りに一層の磨きがかかる。この年から新たなパートナーとなった武豊騎手を背に天皇賞(春)は逃げを打つと最後は差し返す勝負強さで2度目のG1制覇。追い込み決着の宝塚記念でも逃げてタイム差なしの3着と負けてなお強しの内容を残す。そして、秋初戦の京都大賞典を初の1番人気で勝利を収めると、続くジャパンCも絶妙なペース配分で逃げ切り勝ち。有馬記念はクビ差の2着に惜敗したが、この2016年は年度代表馬の栄誉を得た。
5歳のキタサンブラックは全6戦で1番人気と信頼を不動のものとした。初戦はG1昇格後初施行となった大阪杯を横綱相撲で完勝。さらに天皇賞(春)ではディープインパクトの記録を1秒近く更新する破格のレコードで連覇と実力は頂点に達する。ところが、激走の反動で宝塚記念は9着に惨敗。単勝1.4倍と競走生活で最大の支持を得たレースは勝てなかった。
それでも天は見放していなかった。秋の天皇賞は稀に見る不良馬場でゲートを出遅れるアクシデントがあったものの、後方からレースを進め直線では他馬が避ける内からロスを挽回して春秋制覇を成し遂げる。ジャパンCはレース後に落鉄が見つかる不運もあり連覇を逃したが、続く有馬記念を三度目の正直で有終の美。2年連続で年度代表馬に輝き、2020年には顕彰馬に選出された。