ストーリー
地方・浦和競馬でデビューし9戦8勝。中央に転じると、1600mで2つのG1タイトルを獲得する「マイル王」の座まで上り詰めたのが、95年のマイルCS、そして翌96年の安田記念を制したトロットサンダーだ。
トロットサンダーのデビューは92年7月。ケガでデビューが遅れ、3歳(現表記)夏を迎えての初戦となったが、ここを快勝すると連戦連勝。翌93年2月まで8戦7勝の快進撃を見せた。そんな中で襲った骨折のアクシデント。1年3ヶ月もの休養を強いられたものの、これを乗り越えた復帰戦も制して8勝目。この勝利で、トロットサンダーはいよいよ中央の舞台へと乗り込むことになる。
しかし、いくら9戦8勝とはいえ、地方競馬の中でも脚光を浴びることの少ない浦和競馬、しかも下級条件・C1クラスまでの成績。重賞実績を持って中央に転厩し「マル地旋風」を巻き起こした、オグリキャップやイナリワンほどの注目を集めることはない中央入りだった。
そんな注目度の低さとは裏腹に、トロットサンダーは中央でもその素質を存分に発揮する。芝コースを苦にすることもなく、94年7月から約1年の間に5戦3勝と、一気にオープンへの階段を駆け上がっていった。
その後、2000mの札幌記念、函館記念では7着敗退を喫したが、距離を短縮した毎日王冠では3着好走。さらに、地方時から4戦全勝の相性を誇る1600m戦・オープン特別のアイルランドTに出走すると、中団から突き抜け3馬身差。まさに「マイル戦でこそ」という切れ味を発揮して見せた。
次の目標はもちろん、「マイル」の頂点を競うマイルCS。やはり中団からレースを進めると、直線では持ち味の末脚が炸裂。前で粘り込みをはかるヒシアケボノ、一歩先に動いたメイショウテゾロをゴール前で並ぶ間もなく一気に差し切り、ついに中央で「マイル王」の座を手中にしたのだった。
翌96年、トロットサンダーは2月の東京新聞杯で始動する。初の58キロで切れ味が鈍るのではないかとも心配されたが、終わってみれば自身最速の上がり34秒1で優勝。続く京王杯スプリングCはハートレイク、タイキブリザードに先着を許したものの、「距離が伸びれば」と思わせる末脚を繰り出していた。
そして迎えた安田記念。トロットサンダーは直線勝負で、馬場の中央から坂を力強く駆け上がっていった。ところが、逃げたヒシアケボノ、先行したタイキブリザードが予想以上の粘りを見せ、ゴール前は3頭の大接戦に。しかし、得意のマイル戦なら負けられないとばかりにタイキブリザードをハナ差ねじ伏せ、マイルG1連覇を成し遂げたのだった。
その後、トロットサンダーは骨膜炎などもあって、このレースを最後に引退・種牡馬入り。年をまたがる「秋春」マイルG1連覇のため最優秀短距離馬のタイトルこそ獲得できなかったが、マイル戦は地方、中央通算で8戦全勝。文句なしに「名マイラー」に数えられる1頭だ。