データde出〜た
第1307回 3歳未勝利戦でデビュー勝ちを収め、後に大成した馬は?
2019/4/8(月)
3月16日をもって今年の「3歳新馬戦」が終了し、今後は初出走馬でも既走馬相手の戦いになる。しかし今年は、その新馬戦もフルゲートが続き、まだ新馬戦が行われているうちから未勝利戦でデビューする馬も多く見られた。その結果、3月に未勝利戦でデビュー勝ちを収めた馬はなんと12頭。初出走の不利など感じさせない完勝を収めた馬もおり、次走以降の走りにも期待がかかる。今回は、そんな「3歳未勝利戦でデビュー勝ち」を飾った馬のうち、後に重賞を制した馬が、デビューから重賞制覇までどんな成績を残していたか振り返ってみたい。データの分析には、JRA-VAN DataLab.とTARGET frontier JVを利用し、表2以降の集計期間は2009年〜2018年の10年間(未勝利戦出走時、該当172頭)とした。
■表1 本年3月に3歳未勝利戦でデビュー勝ちを収めた馬
月日 | 馬名 | レース | 人気 | 着順 | タイム差 | |
3月2日 | クードメイトル | 阪神 | 芝2000 | 2 | 1 | -0.2 |
3月9日 | ブッチーニ | 阪神 | ダ1400 | 5 | 1 | -0.7 |
3月10日 | スマイル | 中山 | 芝2200 | 2 | 1 | -0.1 |
スペースクラフト | 中京 | ダ1900 | 3 | 1 | -0.0 | |
3月16日 | カグラヒメ | 中京 | ダ1800 | 3 | 1 | -0.2 |
サンノゼテソーロ | 中京 | 芝1400 | 2 | 1 | -0.6 | |
レディマドンナ | 阪神 | ダ1800 | 2 | 1 | -0.0 | |
3月23日 | アルティマリガーレ | 阪神 | 芝1400 | 2 | 1 | -0.2 |
3月24日 | レッドモアナ | 阪神 | ダ1200 | 5 | 1 | -0.5 |
ショウナンバルディ | 阪神 | 芝1800 | 10 | 1 | -0.4 | |
3月30日 | セラピア | 阪神 | 芝1800 | 1 | 1 | -0.4 |
3月31日 | クロウエア | 阪神 | 芝1600 | 5 | 1 | -0.5 |
まずは、今年3月に3歳未勝利戦でデビュー勝ちを飾った12頭を見ておこう。もっともタイム差をつけて勝ったのは、3月9日の阪神ダート1400m戦を鮮やかに差し切ったブッチーニで、2着には0.7秒、4馬身差。白毛馬の勝利という点でも記憶に残る一戦だ。これに次ぐのは3月16日の中京芝1400m戦・サンノゼテソーロの0.6秒(3馬身半差)。ほかに、3月24日以降の4頭が2〜3馬身差の完勝を収めている。
この「3歳未勝利戦の初出走馬」が月間勝利数を2桁に乗せたのは、2014年4月の10勝以来。11勝以上なら2008年5月以来、12勝以上となると2004年5月までさかのぼる。過去には1993年5月に15勝を挙げた例もあるが、いずれも新馬戦終了後の4〜5月のこと。中旬まで新馬戦がある3月の段階で12勝というのはかなり異例だ。
■表2 モーニンのデビューからG1制覇までの戦歴
日付 | レース名 | 距離 | 人気 | 着順 | タイム差 |
2015/5/16 | 未勝利 | ダ1400 | 1 | 1 | -0.9 |
2015/5/31 | 500万下 | ダ1600 | 1 | 1 | -0.2 |
2015/9/21 | 新涼特別 | ダ1400 | 1 | 1 | -0.3 |
2015/10/24 | 秋嶺S | ダ1600 | 1 | 1 | -0.4 |
2015/11/14 | 武蔵野S | ダ1600 | 1 | 3 | +0.3 |
2016/1/31 | 根岸S | ダ1400 | 1 | 1 | -0.1 |
2016/2/21 | フェブラリーS | ダ1600 | 2 | 1 | -0.2 |
ここからは、3歳未勝利戦でデビュー勝ちを飾り、後に重賞を制した馬について見ていきたい。2009年以降の該当馬のうち、後に中央競馬のG1を制したのは、2016年にフェブラリーSをレコードタイムで制したモーニン、そして同年の高松宮記念をやはりレコード勝ちしたビッグアーサーの2頭だ。
モーニンは、2015年5月の京都ダート1400m未勝利戦でデビュー。道中3番手の外を追走し、残り200mで先頭に立つと、そこから2着に5馬身差をつける圧勝劇だった。ここから無傷の4連勝でオープン入り。重賞初挑戦の武蔵野Sでは3着に敗れて連勝こそ止まったものの、続く根岸Sですぐに巻き返した。そしてフェブラリーSでは、好位から直線坂上で先頭に立ち、ノンコノユメ以下の差し・追い込み勢を抑えてG1タイトルを手にしている。
■表3 ビッグアーサーのデビューからG1制覇までの戦歴
日付 | レース名 | 距離 | 人気 | 着順 | タイム差 |
2014/4/13 | 未勝利 | 芝1200 | 4 | 1 | -0.4 |
2015/2/28 | 八代特別 | 芝1200 | 1 | 1 | -0.4 |
2015/3/29 | 岡崎特特別 | 芝1200 | 1 | 1 | -0.3 |
2015/4/11 | 淀屋橋S | 芝1200 | 1 | 1 | -0.0 |
2015/6/20 | 水無月S | 芝1200 | 1 | 1 | -0.0 |
2015/8/23 | 北九州記念 | 芝1200 | 1 | 2 | +0.2 |
2015/10/11 | オパールS | 芝1200 | 1 | 1 | -0.5 |
2015/11/29 | 京阪杯 | 芝1200 | 1 | 2 | +0.0 |
2015/12/26 | 阪神C | 芝1400 | 1 | 3 | +0.2 |
2016/1/31 | シルクロードS | 芝1200 | 1 | 5 | +0.6 |
2016/3/27 | 高松宮記念 | 芝1200 | 1 | 1 | -0.1 |
もう1頭のG1馬・ビッグアーサーは、G1制覇こそモーニンと同じ2016年だが、年齢はひとつ上。2014年の4月に福島芝1200mの未勝利戦で、2着に2馬身半差をつけてデビュー勝ちを飾った。その後、外傷などがあって1年近くの休養を強いられたものの、500万、1000万、1600万、そして降級してもう一度1600万とデビュー5連勝。続く北九州記念以降はオープン特別のオパールS1勝のみと重賞ではやや苦戦したが、それでも高松宮記念では1番人気の支持を受け、G1初制覇を飾った。
この2頭に共通するのは、条件戦を無敗で通過していたこと。デビュー戦だけを見て先々を予想するのは難しいが、2〜3戦目あたりには「将来G1を取れるのではないか」という期待を抱かせる走りを見せ、そんな期待通りの成長を遂げた2頭だ。
■表4 3歳未勝利戦でデビュー勝ちを収め、後に中央G2を制した馬
馬名 | G2初制覇 | 成績 | 連勝 | |
デビュー〜 | 最多 | |||
ダークシャドウ | 2011年毎日王冠 | 4-2-0-2 | 2 | 2 |
スマートレイアー | 2014年阪神牝馬S | 4-1-0-2 | 2 | 2 |
エイシンヒカリ | 2015年毎日王冠 | 7-0-0-1 | 5 | 5 |
シャケトラ | 2017年日経賞 | 3-1-1-0 | 1 | 2 |
パフォーマプロミス | 2018年日経新春杯 | 5-2-1-3 | 3 | 3 |
※既出馬は除く。成績、連勝はG2初制覇前まで
続いて表4は後に中央競馬のG2を制した馬で、ビッグアーサー(高松宮記念の次走でセントウルS制覇)は除いている。このうち、エイシンヒカリは2015年、国内10戦8勝の成績をひっさげて参戦した香港Cで海外G1制覇。翌春にはフランスでイスパーン賞も制した。本馬も国内G1馬のモーニンやビッグアーサーと同様、デビューからの連勝を大きく伸ばした(5連勝)点は共通している。また、残る4頭のうち、シャケトラを除く3頭はデビューから2連勝以上。そして、G2制覇前までの勝率がもっとも低かったパフォーマプロミスでも45.5%と、デビューから着実に勝利を重ねていたのが、後にG2以上を制した馬たちだ。
■表5 3歳未勝利戦でデビュー勝ちを収め、後に中央G3を制した馬
馬名 | G3初制覇 | 成績 | 連勝 | |
デビュー〜 | 最多 | |||
フレールジャック | 2011年ラジオNIKKEI賞 | 2-0-0-0 | 2 | 2 |
ナムラタイタン | 2011年武蔵野S | 7-1-3-5 | 6 | 6 |
ファイナルフォーム | 2012年ラジオNIKKEI賞 | 2-1-1-0 | 1 | 1 |
ヴァンセンヌ | 2015年東京新聞杯 | 5-1-0-4 | 1 | 3 |
ダンスディレクター | 2016年シルクロードS | 5-6-1-3 | 2 | 2 |
バクシンテイオー | 2016年北九州記念 | 5-2-2-15 | 1 | 2 |
メラグラーナ | 2017年オーシャンS | 6-1-0-7 | 1 | 2 |
ステイインシアトル | 2017年鳴尾記念 | 4-2-0-3 | 1 | 2 |
エポワス | 2017年キーンランドC | 6-7-4-11 | 2 | 2 |
コパノキッキング | 2018年カペラS | 5-1-0-1 | 1 | 2 |
サトノティターン | 2019年マーチS | 4-1-0-3 | 2 | 2 |
※既出馬は除く。成績、連勝はG3初制覇前まで
対して、後の中央G3優勝馬となるとその様相は一変。表5の11頭(ダークシャドウなど既出馬は除く)のうち、6頭は早くもデビュー2戦目で敗戦を喫していた。中には重賞初制覇が9歳だったエポワス(2017年キーンランドC)や、7歳だったバクシンテイオー(2016年北九州記念)といった名前もあり、ここまでくるとデビュー2戦目の結果がどうだったかなど、まったく関係ないと言っていいだろう。
一方で、モーニンやビッグアーサー、エイシンヒカリを上回るくらいの結果を出していたのがナムラタイタンだ。2009年5月に京都ダート1400m未勝利戦でデビュー勝ちを飾ると、休養を挟みつつ6連勝。7戦目、重賞初挑戦のプロキオンSで敗退(3着)するところまでは上記3頭と変わらなかった。ダート1400mを得意としていたため、G1を取りづらかった(開催場次第でJBCスプリントが1400mになることがある程度)という面もあるだろうが、これだけの成績でこの「表5」にしか入らないのはなんとも惜しい印象だ。
以上、3歳未勝利戦でデビュー勝ちを挙げ、後に重賞タイトルを獲得した馬について振り返ってみた。こうしてみるとG1とG2、G2とG3の間にはそれぞれ壁があり、G3くらいであれば、2戦目以降しばらくの成績はさほど問われない。しかしG2になると順調に勝ち星を伸ばす必要があり、G1には条件戦を無敗で駆け抜けるくらいでなければ手が届かない。表1に挙げた12頭以外にも、今後の3歳未勝利戦でデビュー勝ちを飾る馬は続々と出現するだろうが、将来のビッグタイトルへ向けては2戦目以降に注目だ。
ライタープロフィール
浅田知広(あさだ ともひろ)
1970年12月、埼玉県生まれ。立命館大学文学部中退後、夕刊紙レース部のアルバイト、競馬データベース会社を経て、現在はフリー。パソコンが広く普及する以前から、パソコン通信でデータ手入力方式の競馬予想ソフトを公開するなど、競馬のみならずPCやネットワークにも精通。その知識を活かし、Webや雑誌で競馬ライターとして活躍するかたわら、ネットワークの専門誌にも連載を持つ。