セレクトセール2023 丹下日出夫のセレクトセール日記

丹下日出夫のセレクトセール日記 7月11日(火)

二極集中

2023年生まれのセレクトセール当歳セッションのキタサンブラック産駒は15頭。イクイノックスの衝撃の登場からキタサンの種牡馬としての本格リニューアル元年。このコラムで時々記してきましたが、種牡馬のサイクルは4年に一度のオリンピックに似ている(笑)。

本年は産駒の総数も大幅に増え、配合牝馬はどういうタイプが合うのか。セリ当日の下見をしながら、ワタクシもいろんな人々とともに熟考。

トップバッターは301番のファディラーの2023。リード役を務めるだけあって、キタサン特有の大きなフレームを有し、胸前にも幅があって心身ともに健康そう。みるみるうちに値段は沸騰、キタサン産駒は3億8000万円という高額でスタートを切った。

高額落札者の視線が、いかにキタサンブラック産駒に集まるのか。最初の上場馬で後の産駒たちの展開が透けて見える。

1億に満たない馬も何頭かいたが、次の億超えは327番のアメージングムーンの2023。半兄は今年のアメリカジョッキークラブCを勝ったノースブリッジ(父モーリス)、そして現3歳で共同通信杯2着のタッチウッド(父ドゥラメンテ)。

351番のダンダラの2023は、1億1000万円。母自身の実績は英4勝(G2・G3各1勝)。スピードを備えた、素早い動きをしそうなキタサン産駒です。

405番のキラーグレイシスの2023は、半兄にGTホープフルS勝ちのキラーアビリティ。豊かな骨量と血液循環の良さが肌合いから透けて見え、よほどたくさんの人の前に出て調査されたのだろう(笑)。立ち姿がピタリと決まり、スターの要素を早くも漂わせている。

セールも終盤に差し掛かった499番のウォークロニクルの2023。2億9000万円の値がつき、最後の最後まで場を賑わせた。

本年の当歳セールでキタサンと双璧を成す、もう一頭の注目馬はなんといってもコントレイルでしょう。

上場馬の総数は当歳では最多の20頭。その父ディープインパクトの種牡馬デビュー初年度はサンデーサイレンスの一番の後継種牡馬と言われてはいたけれど、小振りな仔たちがかなり多かった。

サンデーサイレンスを見知っている人からすると、馬体のラインやサイズなど、何かしらモノ足りない。生産する側も、メインとなる社台グループも、A級に属する繁殖牝馬を配合相手に選んではいるが、ディープに身も心もすべて託すとなると暴落の危険性もある。買う側としても怖さは同じ。ディープはGTの上位を賑わす馬も輩出したが、いろんなリスクなどを考えながら慎重なスタートを切っており、産駒成績の目標ラインや賞金額の変遷等、全幅の信頼を置けるまでには3〜4年を要した。

しかし、コントレイルの初年度産駒への意識や期待感は、ディープより遥かに上。セリ前の噂話から、明るい希望――オプティミズムがセリの空気を覆っているような気がしていた。

なるほど、産駒たちの個体のシルエットや歩様――何よりも父に酷似した薄い皮膚感は、ディープインパクトをも超える、出色の艶があるんだよなぁ。

歩かせると運動神経の良さも一目瞭然。マイラー的なシャキシャキとしたリズムを刻む仔もいれば、適度に完歩は大きく後肢の入りも確かな中距離仕様で、クラシックディスタンスに対応可能な仔も多くいる。

そんなコントレイル産駒のトップバッターは305番のモアナの2023で、1億7000万円で落札。三代母プロモーションを起点に、アドマイヤメインやアドマイヤバラードなどブラックタイプを数多く送り出してきたが、馬体のラインやちょっと困ったような眼つきも父と同じ。

310番のパーソナルダイアリーの2023は、ムチッと張った骨格の大きな鹿毛。父とは造りがかなり異なるが、姿形を買われて1億7000万円でハンマーが落ちた。

一番の高値は360番のコンヴィクション2の2023。母はアルゼンチン産。適度な長さと厚みをもち、筋肉は柔らかく仕草に隙がない。ほぼすべてに満点、激しい競り合いの末5億2000万円で決着。落札したのは前田幸治さん率いる(株)ノースヒルズだった。

次位は329番のバイバイベイビーの2023の3億3000万円。母はイギリス・アイルランドで3勝と勝ち星こそ少ないが、重賞入着は多数。母の父は欧州の種牡馬シーンを長きにわたって牽引してきたガリレオ。SS系との血統の合体が楽しみです。

387番のシーズアタイガーの2023は、牝馬ながら2億8000万円。現3歳の半兄ダノンザタイガーは東京スポーツ杯2歳Sで2着。寸前のところで春のクラシックを回避したが、父は替われど首差し、四肢や背中の長さ、完歩の大きさなどは兄によく似ている。

398番のケンホープの2023の価格は1億1500万円。半姉のプールヴィルは7Fベストのスピード系だったが、父がコントレイルに替わり、しなやかなマイラーにバージョンアップ。413番のスウィッチインタイムの2023も、滑らかで脚の速そうなマイラーです。

現時点の種付料は1200万円。3000万円の価格なら普通に儲けが見込める。次年度、そして3年目も小さな波はあるだろうが、上昇はあっても後退は考えにくい。もしかしたら、このあと10年はコントレイルの時代が続くかもしれない。

ここ2年ほど小さな迷路に入った感じがするエピファネイアは、配合牝馬の特性などを再考、エフフォーリア的なスケール感だけ追及するのではなく、やや四肢や背中が短めの、丸みのあるマイラータイプがステージに上がった。本年の当歳は出直し元年となるかもしれない。

その象徴ともいえるのが377番のコールバックの2023。半兄で現2歳のジーティーパワー(父Frankel)も当セレクトで見ていたが、ムキムキの栗毛だった兄とは毛色も違い、厚みと丸みが特徴のマイラー体型。お値段は2億6000万円。マイルの新馬戦でデビューし、イメージとしては朝日杯フューチュリティS等を経て、皐月賞という感じでしょうか。

381番のカジノブギの2023は、一つ上の兄も前日の1歳セッションで評判になった馬だったが、前記コールバックの2023によく似た、闘志とパワーを感じさせるファイターです。

397番のサロニカの2023は、近親にサリオス、サラキア、サリエラなどが名を連ねる、いわずもがなの良血。こちらはマイルから中距離まで、距離に融通の利く万能牝馬。

417番のセリエンホルデの2023は1億円という本日最高のリザーブ価格が、生産者の自信のほどを示しており、お値段は3億円。2月生まれにしてはいくぶん小さめだが、きゅっと締まった後肢の造りがなんともいえず美しい。シュネルマイスターを超える、GTマイラーに育っていくのかもしれない。

キズナ産駒たちも高値安定。357番セレスタの2023の価格は1億9000万円。オークスが最終目標になりそうなスケールの持ち主。

423番のジョイカネラの2023は、母がアルゼンチン3歳牝馬チャンプ。パツンパツンに馬体が張りムチムチプリンプリン。その肉体美に1億5000万円の値がついた。

初年度産駒でジオグリフを送り出したドレフォンも、今年は配合牝馬を整備。肩や首がやや筋っぽい仔が多かった初年度産駒とは異なり、筋肉の柔らかさや皮膚の薄さが目立ち、馬体のラインもしなやかになった。

321番のドナブリーニの2023は、姉のドナウブルーやジェンティルドンナたちともまた違う、カチっとしてコンパクトな栗毛牝馬。この血統がセリに出たら、牝馬ながらも2億1000万円の値をつけるのは当然かもしれない。

他にも325番のルーラーシップ×ルナベイルは1億2000万円。おっと、ハービンジャー産駒の384番のミカリーニョの2023は、伸びやかそうな父を得て、身体も気性も尖った感じがなく、2億1000万円の高値で決着した。

ダート戦線の総大将は335番のブリックスアンドモルタル×ワイルドフラッパー。価格は1億9000万円。交流競走も含め、軽く5つくらいは重賞タイトルを奪っていくかもしれない。

セレクトでの上場頭数は少ないけれど、ルヴァンスレーヴも地味ながら砂の活躍馬がきっと出る。488番のセラドンの2023は、コパノキッキングの弟。気に入りました。

新種牡馬クリソベリルは、きっとゴールドアリュールの後継種牡馬。次代のダートシーンはお任せ。1億円は稼いでくれそうなダート馬がゾロゾロ。5000万円払っても十分オツリが来る。

キタサンとコントレイルに視線が集中するあまり、初日に比べて高額馬と他の馬たちの価格帯の差が広がってしまったが、億を超える金額には手が届かない購買者にとっては、注目度が低くなっている分、モーリスやアドマイヤマーズ、レイデオロなど、同じ種牡馬で同レベルの産駒でも、前日より500〜1000万円近く安く買えた(ような気がする)。

二日目の当歳はセリ後半になっても、5000万円を超える価格帯でジワジワ競る展開が続き、大トリの543番のリオンディーズ×ラルケットは兄姉に活躍馬が多く、当然の億超えとなる1億4500万円でハンマーが落ちた。

終わってみれば平均価格は約6749万円。落札総額は過去最高を記録した昨年から18億8750万円増の147億8000万円。2日間合わせての落札総額は281億4500万円と、今年も過去最高記録を更新。いつも以上に胸いっぱいの熱量の濃い一日でした。

注記:金額は、全て税抜金額

ライタープロフィール

丹下日出夫(競馬評論家)

「ホースニュース馬」を経て現在は毎日新聞本紙予想。POG大魔王の通称も定着している。