セレクトセール2023 丹下日出夫のセレクトセール日記

丹下日出夫のセレクトセール日記 7月10日(月)

コロナは少し遠くに去った。本年のセレクトセールに参加する人たちの心持ちも、どことなく健やかで晴れやか。

本年のオープニングはキズナ×ヤングスターが登場。母の馬名の中にある、「若さ」という言葉は、今年のセレクトの雰囲気や方向性などを物語っているようで、なんだか暗示的ですね。発表体重は1歳の7月時点としては大きめの446キロで、骨格的にも1年後には50キロ以上は重くなるだろう。母は豪G1馬、1歳セッションはこの馬の2億1000万円からスタートを切った。

キズナ産駒は他に、24番のメチャコルタの2022が8000万円。32番のカヴァートラブの2022が6800万円。産駒成績同様、総じて高価格帯で推移。産駒たちは健康、地味でも滋味がある。

続く2番はアドマイヤマーズ×ポロンナルワ。祖母はシンハリーズ、近親にはシンハライト。オープンクラスで実績のある兄姉が多数いて、よく膨らんだ健康な筋肉を有し、長い競り合いの末、1億4500万円で落札された。アドマイヤマーズ産駒は17番のメジロマリアンの2022、47番のテルアケリーの2022がともに7000万円の値がついた。

種牡馬アドマイヤマーズは、その父ダイワメジャーの影響がもちろん濃いマイラータイプが大勢を占めるが、マーズもその産駒たちも背中に適度なゆとりがあり、後肢の入りもメジャーよりは深い。スピードオンリーではなく、切れ味のある仔も出るのではないか。差す競馬が可能な分、もう1〜2Fの距離延長にも融通が利く仔が現れるかもしれない。

セリの序盤は景気づけとばかりに血統馬がドバドバと登場。本年の1歳がラストクロップとなるドゥラメンテのトップバッターは3番のコンドコマンドの2022。シルエットは若干硬質だが、血統的には1億2000万円は当然だろうか。

ただ注目を集めている割に、その後の子供たちの値付けはジリジリ。35番のウィープノーモアの2022は1億1500万円。個人的には2億円近くいっても不思議はないような気がしたが、落札者は思わぬラッキーな値段にニンマリか。

58番のリリサイドの2022(姉はリスグラシュー)もジリジリと時間をかけ1億6000万円に到達。94番のドナブリーニの2022は、2億1000万円でハンマーが落ち、99番のデックドアウトの2022は肉体美を買われ1億3000万円に上昇。現時点で482キロだが骨格は大きく、来年の今頃は520キロくらいになっているか。153番のファイナルスコアの2022は、兄姉も人気があったが、1億5500万円をつけた。

4番には目玉の一頭、キタサンブラック産駒の牡馬が登場。ひとつ上のハーツクライ産駒の兄もセレクトで見たが、キタサンを配しひと回りスケールアップ。現時点でも適度に厚みがあり、大人しく見せるが闘志も秘める。3億1000万円という価格は、キタサンへの種牡馬としての期待と未来とを指し示しているようだ。

41番のアルテリテの2022は、シルエットおよび皮膚感は、「オンナ・イクイノックス」とでも例えればいいのか。ただ、8800万のお値段はアレレ?

対して「オトコ・イクイノックス」ともいうべき81番のダイヤモンドディーバの2022は1億7000万円。うーん。それなりに体重はあるのだが、キタサンブラックの評価は未来図がまだ描き辛い。しかし92番のアイムオールレディセクシーの2022は2億9000万円に急反発。みなさんの揺れる心持ちが価格に表れているようだ。

5番のベルアリュール2の2022は、フィエールマン産駒。去年の当歳でも感じていたが、父同様、中長距離系の穏やかでしなやかな細めの仔が多い。本馬も小振りだが、半姉アドマイヤリードもデビュー直後は400キロ前後と軽量ながらマイルGTをもぎとった。

昨年のセッションは、モーリスが大人気だった。祭りのあとの本年も、丈夫で大きな鎧の筋肉をもつ産駒が多く、7番のハヴユーゴーンアウェイの2022は5800万円、36番のパンデリングの2022(祖母はフサイチパンドラ、近親はアーモンドアイ)は8800万円、91番のアシュリンの2022は9800万円とジリジリ上昇。115番のダイワズームは1億1500万円と億超え。

ヒップナンバー8番はエピファネイア×リリーズキャンドル。近親はリリサイド(その娘はリスグラシュー)、現3歳の半兄ダズリングブレイヴ(父Saxon Warrior)は、けっこう好きでした。父がエピファネイアに替わり、ムッチリと張った力感溢れる芦毛が誕生。エピファ再浮上の旗艦となるか。

97番のカジノブギの2022は、ガッチリとして筋肉質な、闘志あふれるマイラー系。歩様にも運動神経のよさがよく現れ、お値段は1億9000万円。来年の2歳展望のために、リストに名前をグリグリと記す。

マル外・持ち込み系のトップバッターは16番のKingman×コスモポリタンクイーン。現時点で460キロという筋肉の鎧を備え、スプリントもしくはマイルGTでの活躍を予感させる、今年のセレクトで展示販売されているアストンマーチンみたいなスポーツカーです。

ディープインパクトやキングカメハメハ、ハーツクライが全盛の頃は、マル外系は無理してまで高値で挑むリスクを避け、おや?このくらいで落札されるのか――リザーブに近い価格でハンマーが落ちることが多かったが、現種牡馬シーンは混とん。3億円にまでハネ上がった。

102番のWootton Bassett×グリーンバナナズは、全姉のAudaryaは英G1・プリンスオブウェールズS2着、仏G1勝ち。北米へと遠征しBCフィリー&メアターフをもかっさらったように世界を股に掛けて芝中距離GIが普通に狙える。種牡馬としてもいいね。

20番はシルバーステート×パレスルーマー。そう、今年の春の天皇賞の優勝馬ジャスティンパレスを兄に持つ本日の目玉の一頭。肌合いはディープ産駒の兄とは少し異なるものの、首差しや背中、トモへのライン、歩き方にも兄と共通点があり、ダービーロードはもちろん、古馬となり天皇賞、宝塚記念、海外G1遠征も見据える、3億1000万円のお値段通りの大器です。

101番の父はロードカナロア、母はスペシャルグルーヴ。カナロアというよりは、シルエットも歩き方も、エアグルーヴ系の香りがプンプン。ダイナカール好きの鈴木淑子さんが泣いて喜ぶ逸品(笑)。お題は7000万円から。短い時間にあちこちから活発に手が上がり、2億円ピタリでハンマーが落ちた。

104番のアレイヴィングビューティの2022も億超え。四肢も背中も長めの、マイラーにとどまらない、オールマイティー型だった。

ブリックスアンドモルタル産駒は、リザーブを上回る高評価が続いていたが、158番のブルックデイルの2022が2億円超えで噴火。

値段を抜きに、ワタクシのお気に入りは51番のミッキーアイル×カンビーナ、108番のサートゥルナーリア×オーマイベイビー。そっと来年の2歳リストに組み込もうと思う。

前半100頭くらいまでは平均価格は8000万円近い、驚きの価格帯で推移していたが、180番をすぎると6000万台へ。競りも大団円に向かい、大トリのレイデオロ×イスパニダの7200万円で、初日の1歳セッションは終了。

長い1日となったが、1歳セッション総売上額はなんと133億6500万円で、平均価格は6188万円。過去最高を記録した昨年を上回り、どちらも1歳セッションの新記録となった。

明日の当歳セッションが更に楽しみでならない。

注記:金額は、全て税抜金額

ライタープロフィール

丹下日出夫(競馬評論家)

「ホースニュース馬」を経て現在は毎日新聞本紙予想。POG大魔王の通称も定着している。