セレクションセール2022 セレクションセールの歴史

4月下旬、ある取材で日高管内の旧知の牧場へ取材を申し込んだ。いつもなら、こちらのお願いした日程に合わせてくれるのだが、その時は、

「この日はセレクションセールの実馬検査があるから、別の日にしてもらえるかい?」

と申し訳なさそうに話してきた。

むしろ、申し訳ないのは自分の方であり、取材は都合の良い時期に合わせますと言った後に、実馬検査で無事に合格することを願っていると伝えて電話を切った。

出産、そして種付けシーズンでほぼ体を休める日がないにもかかわらず、生産者たちはその仕事に並行する形で、セレクションセール上場予定馬の身体作りを行っている。

とはいっても、実馬検査に合格するために芸術品のような美しい身体を作るのが目標ではない。当歳時からの放牧で育まれてきた充分な運動量は、たくましさと健康さを備えた馬体として表れる。また、人の指示を受け入れる賢さは、ハンドラーとの息が合ったウォーキングにも証明される。

そのうえ、購買者の興味を引くような血統背景も評価ポイントであり、全ての要素がそろった馬、まさに「セレクション」された馬しか上場が許されないのだ。

今年のセレクションセールは、2011年以来となる2日間開催(7/26〜7/27)で行われることとなった。右肩上がりの日高軽種馬農業協同組合(以下、HBA)の主催する定期市場であるが、その中核を成しているのはセレクションセールに他ならない。

一昨年(2020年)のセールレコード(32億6300万円)を塗り替えた2021年は、売却総額が36億5070万円となっただけでなく、売却率も過去最高の86.32%を記録。一頭あたりの平均価格が1800万円を超えたうえに、中間価格も1600万円というストロングマーケットとなった。

ジャスティンロック

ジャスティンロック
2021年京都2歳S
「セレクションセール2020」1歳(2300万円)

2日間開催となった今年は311頭が上場を予定。2021年のセール(上場頭数234頭)から80頭近い増加となった。生産者にとってはセレクションされるチャンスが増えて、購買者にとっても馬を選ぶ楽しみが広がった。まさに「Win-Win」の関係性のように思えてくるが、過去に2日間開催を行った2011年には、前年より、売却率だけでなく平均価格と中間価格で数字を落とすという弊害が出ていた。

しかしながら、セール自体がブランド化しただけでなく、取引馬の活躍がセールへの信頼感を高めている今なら、そんな心配もなさそうだ。

2020年の取引馬であるジャスティンロックは2021年の京都2歳Sに優勝し、今年の皐月賞と日本ダービーにも出走。芙蓉Sを優勝したラーグルフもホープフルSで3着に入り、皐月賞出走を果たしている。ハセドンは3連勝で青竜Sを優勝し、今後はダートの重賞戦線をにぎわせてくれそうだ。

ジャックドール

ジャックドール
2022年金鯱賞
「セレクションセール2019」1歳(3200万円)

セレクションセール取引馬は、古馬となってからの活躍も目立っている。2018年の取引馬ディープボンドは、2021年と2022年の阪神大賞典を連覇。2019年の取引馬ジャックドールは、1勝クラスから5連勝で金鯱賞を優勝。秋競馬でのさらなる飛躍が期待される。

また、これまでのセレクションセールは、上場頭数が多いため、遅い番号の上場馬のせりに参加しづらくなっていたが、今年は初日が160頭。2日目も151頭とその問題も解消されている。

もちろん、2日間に渡ってせり会場に購買関係者の足を向けさせるという課題はあるが、HBAは、新千歳空港から千歳市内のホテルを経由したバスを出すなどして、宿泊地とせり会場への移動を確保している。また、2021年から導入されたオンラインビッドも浸透してきており、さらにせりに参加しやすい環境が整えられたとも言えそうだ。

旧知の牧場への取材は、実馬検査の数日後に行ったが、それから約1か月後の6月上旬、今年のセレクションセールの上場馬が発表されると、その牧場の生産馬が上場されていた。すぐに電話をかけて、おめでとうございますと伝えたが、セレクションセール当日は購買者の気持ちで、実馬の姿を見に行きたい。

注記:金額は、全て税抜金額
注記:当コンテンツは、2022年6月22日時点での情報を基に制作しています。

ライタープロフィール

村本浩平(競馬ライター)

北海道在住の“馬産地ライター”として、豊富な取材をもとに各種競馬雑誌で活躍中。