セレクトセール2021
丹下日出夫のセレクトセール日記 7月12日(月)
7月12日(月)|7月13日(火)
ディープインパクト、さよならの始まり
「セレクトセール2021」1歳セッションのオープニングは、ディープインパクト×ゴーマギーゴー(アメリカG2・2勝)。ディープインパクトは、1歳世代がラストクロップ。さよならの始まり、トップバッターは3億円でハンマーが落ちた。
2番のモーリス×リュラは、例えるなら阪神タイガースの近本みたいな快速バッター、9200万円でハンマーがコトリ。3番のホットチャチャの2020(半兄は菊花賞2着のエタリオウ)は、読売ジャイアンツの坂本クンか。激しい競り合いとなり、最後は1億6000万円で気合勝ち。父は「ポスト・ディープ」の有力候補の一頭であるロードカナロア。今日のカナロア産駒たちの序曲、名刺代わりといった感じでしょうか。
4番のリアルスティール×サンタフェチーフは、ガッチリとしたフレームと重量感がウリ。近親はサラキアにサリオス、ありゃりゃ。1億6000万円という高評価を得た。
スタートして4頭で、せりのムードは一気に過熱。ホントかよ。これまで経験したことのないような価格帯で、せりの歯車が回り始める。
12番のハービンジャー×サンデースマイル2は、1億1000万円(半兄フルーキーはチャレンジCなど7勝)。ふっくらと大きなハービンジャーも、ディープ亡き後の次代を担う種牡馬ではないかと、改めて思う。
本日の目玉、ハーツクライ産駒が登場。19番のシーウィルレインの2020は、母がオーストラリアの2歳牝馬チャンピオン。皮膚感や体型が、既存の日本の馬とはちょっと違うような気がする。ハーツ産駒ながら、背腰もしっかりしている、1億6500万円の快速系。
スピード系と言えば、ダイワメジャーですよ。24番のラッドルチェンドの2020は、半姉がテルツェット(父ディープインパクト、ダービー卿チャレンジT優勝)。毛色は黒鹿毛だが、骨格や後肢の送りはダイワメジャー感いっぱい。朝日杯フューチュリティS、NHKマイルCを走る姿が、今から目に浮かんできます。
26番のライツェントの2020は、ディアドラ(父ハービンジャー)の半弟。父がルーラーシップに替わり、クルリと丸く、厚みのある青鹿毛馬にかわった。
32番のエピファネイア×ヴィンテージローズは、個人的には、本日一番のお気に入り。祖母はロゼカラー、母の姉はローズバド。薔薇一族が、エピファネイアの力を得て再び咲き誇るのか。お値段は2億円。60番のエピファネイア×ローザフェリーチェ(1億1000万円)とセットで、藤田晋氏がお買い上げ。
エピファネイア産駒は、億には届かなかったものの、124番のモスカートローザの2020(9600万円)など、他にもコレはと思った馬がいます(明日の当歳セッションは、きっともっとヒートアップする)。
38番は本日のロードカナロア産駒の目玉で、母はエピックラヴ。半兄のダノンザキッドはホープフルSを制覇して、JRA賞最優秀2歳牡馬に輝いた。本馬は、1歳の7月時点で、480キロを超える肉体派。ある近しい人が、ロードカナロアというよりキングカメハメハの生まれ変わりみたいですねと、つぶやいていた。
ドゥラメンテの仔も遅れてはいけない。46番のベルアリュール2の2020は、ヴィクトリアマイルに優勝したアドマイヤリードの半弟。92番のマルケッサの2020は、祖母がマルペンサ、母の兄にサトノダイヤモンド。父に似ても母が出ても、どちらでも走るかもしれない。
ディープインパクト産駒の牝馬、52番のワッツダチャンセズの2020は1億2000万円。65番のサトノダイヤモンド×チェリーコレクトはワーケアの半弟、1億500万円の原石。82番のサトノアラジン×パシオンルージュは、現3歳ファインルージュ(フェアリーS優勝、桜花賞3着)の半弟、1億1500万円。
新しいモノに出会うのはいつも楽しい
厳しいせめぎ合いが続いているが、87番のハーツクライ×メジロツボネは、グローリーヴェイズ(父ディープインパクト、香港ヴァーズ優勝)の半弟。父は違えど、ピカピカの黒鹿毛。馬体のライン、大きな流星は、兄と父の両方に似ている。
88番のバゴ×オーマイベイビーは、ステラヴェローチェの全弟。身体のラインや目つきは、兄ほどは尖っておらず、さらにしなやかで健やかなマイラーにスイッチ。この母の仔は、これからもケチャップみたいにドバドバと、良質なマイラーを送りだすように思う。
96番のクイーンズリングの2020は、目元や身体つきは、ロードカナロアというより母にソックリ。エリザベス女王杯に優勝した、母のリズミカルで確かな後肢の送りを思い出した。
100番のファイネストシティの2020もロードカナロア産駒。母はアメリカの牝馬チャンピオンスプリンター。息子も、きっと超快速。スプリンターズSを2回くらい勝っちゃって、香港の短距離シーンで大暴れしたりして。
上場番号100番までに、ミリオンホースは20頭出現。史上最高のせりになっちゃうんじゃないだろうか。ごはんを食べる暇もないよ(笑)。
あまり知らない金額が飛びかうお金持ち症候群に、ちょっと酔っちゃったかなと思い始めた100番過ぎ。
108番はハーツクライ×シルヴァースカヤ。鑑定人も連呼していましたが、未完の大器シルバーステート(父ディープインパクト)の半弟。1億3500万円で落札。
113番は、ケンタッキーダービー、プリークネスS、ベルモントSを無敗で制覇した、米三冠馬ジャスティファイのセガレ。日本では見たこともない血統、肌合いなど、新しいモノに出会うのはいつも楽しい。2億円という価格になったのは、もしかしたら日本という地で、ダートシーンでももっと楽しもう。その合図になるのかもしれない。
きっと明日も楽しい。せりと人生は……
131番のサクソンウォリアー×アイムユアーズ2の牝馬は、なんだか切れ長で大きな目が艶っぽいな。長くセレクトでディープインパクト産駒を多く見てきたけれど、欧州のディープの系統は、こういう形の子供が出るのか。この仔だけなのか、そうではないのか。ただ、種牡馬サクソンウォリアーはお気に入りにポチリ。テキトーで、ごめん(笑)。
141番のイルーシヴウェーヴの2020は、アドマイヤビルゴ(父ディープインパクト)の半弟。鼻面や風貌などを眺め、4年前の兄(「セレクトセール2017」当歳セッションにて5億8000万円で落札)のことを思い出した。やっぱり、お兄ちゃんに似ていますよ。
185番のハービンジャー×ベルダムは、こっそりワタクシのお気に入り。母ベルダムはドナブリーニの娘(つまり、ドナウブルーやジェンテイルドンナの全妹)。まだ機が熟してはいないけれど、この牝系も10年が過ぎれば、シーザリオの血脈のような、後で振り返ってみると驚くような枝葉を広げているかもしれない。
だいたいこれでせりもひと息ついたな――と、思ったところに「特報」(笑)。
241番のシルバーステート×ギエムが、2億円超え(2億6000万円)。馬体は完ぺきだよなぁ。でも、値付けの判断が難しいね。けれども、馬のポテンシャルみたいなものが大きく評価された。せりは本来こうあるべきものなのかもしれないなと思う。
そして、今年の1歳セッションのお別れ。最後の248番、ディープインパクト×スイープトウショウが2億円で落札されて大団円。
ザワザワと一日が終わった。楽しかったなぁ。きっと明日も楽しい。せりと人生は、そういうもんだよ。
注記:金額は全て税抜き
注記:画像はせり当日に撮影した写真ではございません
ライタープロフィール
丹下日出夫(競馬評論家)
「ホースニュース馬」を経て現在は毎日新聞本紙予想。POG大魔王の通称も定着している。