細江純子(ホースコラボレーター)
「日本ダービー制覇後、レース前にエキサイティングするディープの行動を振り返り、陣営はその点を夏の宿題とし、放牧には出さずに札幌で調整。角馬場を使い、ディープがシリッパネをする度、助手の池江さんは、ディープのお尻に鞭を入れ、(ダメ、ここは我慢)と、心を鬼にしての調教を積むのです。そして迎えた神戸新聞杯。夏に刻んできた池江助手との約束事をディープはきちんと守り、レース前に体力を消耗することなく、ゲートインをし、勝利を収めるのです。春とは違ったディープの姿に、人と馬との日々の対話が読み取れ、ゲート裏で感動したことを覚えています。また無敗の3冠達成となったゴールの瞬間、厩務員さん方とゲート裏から引き上げてくるバスの中が、『市川さん、おめでとう』の声が飛び交い、拍手に包まれたのです。同業者だからこそ分かる2冠馬を手元に置いて調整する日々の重圧と、その中で成し得た偉業達成に対する敬意の表れとなったその光景にも感動しました。もちろんこの状況は、後にも先にも、あの1度だけ。きっと、あの瞬間だけは、皆が自分の担当馬の勝敗を抜きにし、歴史的快挙を喜ばれたのでしょう。人と馬との歩みがあってこそ誕生したディープインパクト。その舞台裏にも、たくさんの感動を頂きました」