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第1637回 夏の新馬戦「上がり1位」馬は将来有望か!?

2022/6/20(月)

今年は6月4日にスタートした2歳新馬戦。レースを見て「これは将来が楽しみだ」と感じることもあるものだが、デビュー戦だけでその馬の将来性を見極めるのは簡単なことではない。たとえば昨年の秋華賞を制したアカイトリノムスメは、前年8月の新潟芝1600m新馬戦では1番人気で7着に敗れていた。また古い話になるが、後に1998年春の天皇賞を制するメジロブライトが、函館芝1800m新馬戦を2分1秒6(良)という極めて遅いタイムで勝利していたことは有名だ(ただしラスト1ハロン11秒1の流れを6頭立て6番手の大外から差し切った)。そこで今回は若駒の将来性をはかるひとつの指標として、新馬戦の「上がり3ハロン順位」に注目してみたい。データ集計にはJRA-VAN DataLab.TARGET frontier JVを利用し、集計対象は2016年〜2021年に夏(6〜8月)の新馬戦(芝)を勝利した馬。集計期間は本年6月12日までの平地競走とした。

■表1 6〜8月新馬戦(芝)優勝馬の2戦目以降重賞成績

新馬上がり グレード 着別度数 勝率 連対率 複勝率
1位(1着) G3 41-42-38-315/436 9.4% 19.0% 27.8%
G2 20-21-17-133/191 10.5% 21.5% 30.4%
G1 21-21-21-195/258 8.1% 16.3% 24.4%
※重賞計 82-85-78-651/896 9.2% 18.6% 27.3%
2位以下
(1着)
G3 29-20-35-276/360 8.1% 13.6% 23.3%
G2 22-12-14-83/131 16.8% 26.0% 36.6%
G1 18-11-12-119/160 11.3% 18.1% 25.6%
※重賞計 69-44-62-488/663 10.4% 17.0% 26.4%

※格付けなしの重賞も含む

表1は、夏の新馬戦(芝)を勝ち上がった馬が、後の重賞(平地)でどんな成績を残していたかを調べたものである。「上がり1位」とは、新馬戦の上がり3ハロンタイムが出走メンバー中最速だった馬。「上がり2位以下」はそれ以外の馬である。この表をみると、新馬戦の上がり3ハロン順位が1位だろうと2位以下だろうと後の重賞成績にはあまり関係なく、むしろG2では新馬戦で上がり2位以下だった馬のほうが好走確率は高いくらいだ。

■表2 6〜8月新馬戦(芝)優勝馬の2戦目以降重賞出走馬数、優勝馬数

新馬上がり 重賞出走数 重賞優勝馬数 主な活躍馬
1位(1着) 193頭/227頭 85.0% 47頭/227頭 20.7% グランアレグリア、ソダシ
2位以下(1着) 196頭/269頭 72.9% 31頭/269頭 11.5% エフフォーリア、ラッキーライラック

2022/5/15 東京11R ヴィクトリアマイル(G1) 1着 5番 ソダシ 2022/5/15 東京11R ヴィクトリアマイル(G1)
1着 5番 ソダシ

しかし表1を見ただけで「新馬戦の上がり3ハロン順位は関係ない」と考えるのは早計だ。表2は夏の新馬戦で勝利を挙げた馬のうち何頭が、後に重賞へ出走したり重賞勝ちを収めたりしているかを調べたものである。集計対象には現役馬も多く含まれるため、全馬を引退まで追えば数はまだまだ伸びることが予想される。

集計対象のうち、新馬戦を上がり1位で勝ち上がった馬は計227頭。そのうち193頭(85.0%)が後に重賞へ出走しているというのは驚きだが、2歳限定重賞だけにしか出走していない馬も数多い。そして227頭のうち、後に重賞勝ちを収めた馬は47頭(20.7%)。約5頭に1頭が重賞ウイナーになっている計算だ。

一方、新馬戦を上がり2位以下で優勝した馬は計269頭で、後に重賞勝ち馬となったのは31頭(11.5%)。こちらは約10頭に1頭と、重賞勝ち馬になる確率は上がり1位だった馬の半分程度だ。昨年の年度代表馬・エフフォーリアやG1・4勝馬ラッキーライラック、あるいは海外でもG1制覇を果たしたノームコアやアドマイヤマーズなどといった大物も出ているが、「重賞勝ち馬になる確率」としては上がり1位馬に比べ低くなっている。

■表3 6〜8月新馬戦(芝1600m以上・良)優勝馬の2戦目以降重賞出走馬数、優勝馬数

新馬上がり 重賞出走数 重賞優勝馬数
1位(1着) 81頭/99頭 81.8% 25頭/99頭 25.3%
2位以下(1着) 57頭/82頭 69.5% 15頭/82頭 18.3%

表3は、表2から対象を絞り「芝1600m以上・良馬場」の新馬戦優勝馬について調べたものである。短距離戦や稍重〜不良馬場を除き、瞬発力勝負になりやすいレースを勝ち上がった馬に限定すると、上がり1位だった馬が後に重賞を勝つ確率は25.3%と、約4頭に1頭まで向上した。ただ、上がり2位以下で新馬戦を勝利した馬も、82頭中15頭(18.3%)が後に重賞勝ちを収めている。「芝1600m以上・良馬場」の新馬戦を勝った馬なら、上がり順位2位以下でも十分に期待できると言って差し支えなさそうな数字だ。

■表4 6〜8月新馬戦(芝)2〜3着馬の2戦目以降重賞出走馬数、優勝馬数

新馬上がり 重賞出走数 重賞優勝馬数 主な活躍馬
1位(2〜3着) 81頭/210頭 38.6% 16頭/210頭 7.6% アーモンドアイ、リスグラシュー
2位以下(2〜3着) 204頭/783頭 26.1% 31頭/783頭 4.0% ダノンファンタジー、ディアドラ

2020/11/29 東京12R ジャパンカップ(G1) 1着 2番 アーモンドアイ 2020/11/29 東京12R ジャパンカップ(G1)
1着 2番 アーモンドアイ

最後に、新馬戦を勝てなかった馬についても調べてみたい。全馬を対象にすると数が多くなってしまうため、新馬戦で2〜3着だった馬に限定した。その結果、上がり1位で2〜3着だった馬は210頭中16頭(7.6%)、上がり2位以下で2〜3着だった馬は783頭中31頭(4.0%)が後に重賞を制していたが、やはりデビュー勝ちを収めた馬と比べれば劣勢だ。

ただ、上がり1位で2〜3着だった馬の「7.6%」は、表2にあった上がり2位以下で優勝した馬の「11.5%」との比較ならさほど大きな差はない。中にはアーモンドアイのような超大物の名前もあり、新馬戦が「上がり最速で追い上げたものの……」という結果ならまだまだ期待は持てると言えるだろう。

以上、夏の新馬戦(芝)について「上がり3ハロン順位」に注目して後に重賞で勝利を挙げる確率を調べてみた。表2と表4の比較から上がり順位に関係なく新馬戦は勝つに越したことはなく、特に上がり1位で勝ち上がった馬は有望だ。また、上がり2位以下でも芝1600m以上(良)のレースを勝った馬なら将来重賞を勝つ確率は決して低くない(表3)。なお、表1にあったように重賞出走までこぎつければ、そこでの好走確率と新馬戦の上がり順位に関係はなさそうだ。

また繰り返しになるが、これはあくまで確率としての話である。たとえばテイエムオペラオー(新馬戦2着)、アパパネ(同3着)といった後の名馬も新馬戦では上がり4位。そして日本ダービーを上がり32秒7、天皇賞(秋)を33秒1で差し切ったエイシンフラッシュも上がり5位(6着)と、夏の新馬戦で上がり4位以下だった馬からでもすぐにこれくらいの名前は挙げられるほどである。こうしたデビュー後の変わり身、成長ぶりを追っていくことも2〜3歳戦の楽しみのひとつだ。

ライタープロフィール

浅田知広(あさだ ともひろ)

1970年12月、埼玉県生まれ。立命館大学文学部中退後、夕刊紙レース部のアルバイト、競馬データベース会社を経て、現在はフリー。パソコンが広く普及する以前から、パソコン通信でデータ手入力方式の競馬予想ソフトを公開するなど、競馬のみならずPCやネットワークにも精通。その知識を活かし、Webや雑誌で競馬ライターとして活躍するかたわら、ネットワークの専門誌にも連載を持つ。


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