データde出〜た
第1427回 G1馬のデビュー戦での馬体重は?
2020/6/8(月)
6月に入り、今年も2歳新馬戦がスタートした。昨年の新馬戦開幕週には、後に朝日杯FSを制するなどの活躍をみせるサリオスが東京芝1600m戦でデビュー勝ち。このときの馬体重は先日の日本ダービー2着時(528キロ)より6キロ重い534キロで、これがそのまま、現3歳世代の新馬戦(芝コース)最高体重優勝記録となった。そこで今回は、2歳〜3歳春(日本ダービーまで)にG1を制した馬の新馬戦での馬体重について調べてみたい。データ分析には、JRA-VAN DataLab.とTARGET frontier JVを利用し、集計対象は2010〜19年の2歳世代とした。
■表1 2歳〜3歳春G1優勝馬の新馬戦馬体重(500キロ以上)
新馬戦馬体重 | 馬名 | 新馬デビュー日 | 人気 | 着順 | 2歳〜3歳春G1勝利 |
534kg | アジアエクスプレス | 2013年11月3日 | 1 | 1 | 朝日杯FS |
534kg | サリオス | 2019年6月2日 | 2 | 1 | 朝日杯FS |
530kg | アルフレード | 2011年9月25日 | 1 | 1 | 朝日杯FS |
518kg | アルアイン | 2016年10月29日 | 1 | 1 | 皐月賞 |
508kg | グランプリボス | 2010年8月14日 | 6 | 1 | 朝日杯FS、NHKマイルC |
506kg | マカヒキ | 2015年10月18日 | 1 | 1 | 日本ダービー |
502kg | ゴールドシップ | 2011年7月9日 | 2 | 1 | 皐月賞 |
500kg | リオンディーズ | 2015年11月22日 | 1 | 1 | 朝日杯FS |
まず表1は2歳〜3歳春のG1優勝馬のうち、新馬戦の馬体重が500キロ以上だった馬を調べたものである。集計対象のG1馬は60頭(G1計73勝)で、500キロ以上だったのは昨年のサリオスなど8頭。そのうちなんと5頭は、朝日杯FSの優勝馬だった。逆に言えば、過去10年の朝日杯FS優勝馬のうち半数は、500キロ以上で新馬デビューを迎えていたことになる。
残る3頭は、皐月賞馬2頭と日本ダービー馬1頭。ただ、過去10年の皐月賞と日本ダービーで、デビュー戦の馬体重が500キロ以上だった馬は計【3.9.7.55】と2〜3着止まりが多い。大型馬に後のG1制覇を期待するなら、皐月賞や日本ダービーよりも、まずは朝日杯FSと言えそうだ。
また、この8頭はすべて新馬戦で勝利を飾っていた。大型馬であっても、レースを使われつつ良化して2戦目以降に勝ち上がるのではなく、初戦からしっかり勝ち切るくらいの馬でなければ、3歳春までにG1を制するのは難しいようだ。
■表2 2歳〜3歳春G1優勝馬の新馬戦馬体重(450キロ未満)
新馬戦馬体重 | 馬名 | 新馬デビュー日 | 人気 | 着順 | 2歳〜3歳春G1勝利 |
420kg | ジョワドヴィーヴル | 2011年11月12日 | 1 | 1 | 阪神JF |
424kg | レッドリヴェール | 2013年6月1日 | 3 | 1 | 阪神JF |
430kg | シンハライト | 2015年10月10日 | 1 | 1 | オークス |
440kg | ヌーヴォレコルト | 2013年10月19日 | 1 | 4 | オークス |
440kg | ミッキークイーン | 2014年12月7日 | 1 | 2 | オークス |
442kg | ダノンファンタジー | 2018年6月3日 | 2 | 2 | 阪神JF |
448kg | オルフェーヴル | 2010年8月14日 | 2 | 1 | 皐月賞、日本ダービー |
表2は表1とは逆に、450キロ未満という軽い馬体重でデビューし、後に2歳〜3歳春のG1を制した馬である。まず、7頭中3頭がデビュー戦で敗戦を喫していたことが、表1との違い。そしてもうひとつ、表1の8頭はすべて牡馬だったが、こちらは7頭中6頭が牝馬だ。
その牝馬6頭のG1勝ちの内訳は、阪神JFとオークスが3勝ずつ。ミッキークイーンを除く5頭は桜花賞にも出走していたが、勝利には手が届いていない。過去10年の桜花賞出走馬のうち、デビュー戦の馬体重が450キロ未満だった馬は【0.5.6.60】。2016年にハナ差2着だったシンハライトなど勝ち馬と同タイムだった馬も3頭を数えるが、なぜか桜花賞だけは勝てていないという結果だ。
■表3 新馬戦から10キロ以上の馬体増で2歳〜3歳春G1を制した馬
馬体重差 | 馬名 | 新馬デビュー日 | 馬体重 | 人気 | 着順 | 2歳〜3歳春G1勝利 | 馬体重 |
+18 | グランアレグリア | 2018年6月3日 | 458kg | 1 | 1 | 桜花賞 | 476kg |
+18 | ダノンファンタジー | 2018年6月3日 | 442kg | 2 | 2 | 阪神JF | 460kg |
+14 | レッツゴードンキ | 2014年8月24日 | 450kg | 3 | 1 | 桜花賞 | 464kg |
+14 | ダノンプレミアム | 2017年6月25日 | 476kg | 1 | 1 | 朝日杯FS | 490kg |
+12 | マイネルホウオウ | 2012年6月23日 | 470kg | 4 | 1 | NHKマイルC | 482kg |
+12 | ロゴタイプ | 2012年6月24日 | 474kg | 1 | 1 | 皐月賞 | 486kg |
+12 | ワンアンドオンリー | 2013年8月4日 | 470kg | 10 | 12 | 日本ダービー | 482kg |
+12 | メジャーエンブレム | 2015年6月14日 | 484kg | 1 | 1 | NHKマイルC | 496kg |
+12 | サートゥルナーリア | 2018年6月10日 | 488kg | 1 | 1 | ホープフルS | 500kg |
+10 | メジャーエンブレム | 2015年6月14日 | 484kg | 1 | 1 | 阪神JF | 494kg |
続いては、新馬デビュー時とG1優勝時の馬体重の「差」に注目してみた。表3は、その差がプラス10キロ以上あった9頭(メジャーエンブレムは2勝)である。プラス18キロでトップに並ぶグランアレグリアとダノンファンタジーは、18年6月3日に同じ東京芝1600m新馬戦でいきなり対戦していた。この2頭も含め9頭中7頭は新馬戦が始まったばかりの6月デビュー、残る2頭も8月と、いずれも早い段階で新馬デビューを果たしていた。また、G1優勝時に500キロの大台に乗っていたのはサートゥルナーリア1頭のみ。そのサートゥルナーリアにしても2つめのG1・皐月賞は496キロ(新馬戦比プラス8キロ)で優勝しており、500キロ前後でデビューした馬が、さらに10キロ以上の馬体増を記録して2歳〜3歳春のG1を勝つのは難しいようだ。
■表4 新馬戦から10キロ以上の馬体減で2歳〜3歳春G1を制した馬
馬体重差 | 馬名 | 新馬デビュー日 | 馬体重 | 人気 | 着順 | 2歳〜3歳春G1勝利 | 馬体重 |
-18 | ジェンティルドンナ | 2011年11月19日 | 474kg | 1 | 2 | 桜花賞 | 456kg |
-14 | ジェンティルドンナ | 2011年11月19日 | 474kg | 1 | 2 | オークス | 460kg |
-14 | カレンブラックヒル | 2012年1月21日 | 474kg | 3 | 1 | NHKマイルC | 460kg |
-14 | メイショウマンボ | 2012年11月25日 | 492kg | 1 | 1 | オークス | 478kg |
-10 | マルセリーナ | 2010年12月11日 | 462kg | 1 | 1 | 桜花賞 | 452kg |
-10 | アユサン | 2012年10月6日 | 494kg | 1 | 1 | 桜花賞 | 484kg |
-10 | ミッキークイーン | 2014年12月7日 | 440kg | 1 | 2 | オークス | 430kg |
-10 | アーモンドアイ | 2017年8月6日 | 472kg | 1 | 2 | 桜花賞 | 462kg |
-10 | ラヴズオンリーユー | 2018年11月3日 | 466kg | 2 | 1 | オークス | 456kg |
最後に表4は、新馬戦から10キロ以上の馬体減で2歳〜3歳春のG1を勝った8頭(ジェンティルドンナは2勝)。こちらは表3とはまったく違い、8頭中6頭が2歳11月以降のデビューで、残る2頭も10月と8月。表3に多かった6月デビュー馬は1頭もいない。また、8頭中7頭は新馬戦に462キロ以上で出走していた。表3とは逆の形で、中〜小型馬がデビューから10キロ以上馬体を減らしているようでは、この時期のG1はなかなか勝てないということになる
以上、2歳〜3歳春のG1優勝馬について、優勝時の馬体重と新馬戦での馬体重の関係を調べてみた。新馬戦からG1優勝までの間隔が開けば開くほど「成長分」が馬体重に現れやすくなることは想像できたが(表3)、6月デビュー馬がここまで多かったことは驚きだ。対照的に、デビューから10キロ以上のマイナス体重でG1を制しているのは、秋後半以降に初出走を迎えた馬が中心になる(表4)。デビューからの馬体重増減幅とデビュー時期の関係がG1レース前に取り上げられることはほとんどないだけに、年末に2歳G1を迎えた際にはぜひ思い出したいデータだ。
ライタープロフィール
浅田知広(あさだ ともひろ)
1970年12月、埼玉県生まれ。立命館大学文学部中退後、夕刊紙レース部のアルバイト、競馬データベース会社を経て、現在はフリー。パソコンが広く普及する以前から、パソコン通信でデータ手入力方式の競馬予想ソフトを公開するなど、競馬のみならずPCやネットワークにも精通。その知識を活かし、Webや雑誌で競馬ライターとして活躍するかたわら、ネットワークの専門誌にも連載を持つ。