データde出〜た
第1341回 追悼 ディープインパクトの活躍を振り返る
2019/8/5(月)
7月30日に惜しくも天国へと旅立ったディープインパクト。日本競馬史上2頭目となる無敗での三冠制覇やラストランで勝利した有馬記念など記録にも記憶にも残る名馬だった。今回はディープインパクトの成績から特徴的なデータをピックアップし、あらためて彼の活躍を振り返ってみたい。なお、データ分析にはJRA-VAN DataLab.とTARGET frontier JVを利用した。
■表1 ディープインパクトの三冠レースでの勝ちタイムならびに上がり3ハロン
レース名 | 勝ちタイム(上がり3F) | 上がり2位の馬 |
皐月賞 | 1分59秒2(34秒0) | 2着シックスセンス(34秒2) |
日本ダービー | 2分23秒3(33秒4) | 6着ニシノドコマデモ(34秒4) |
菊花賞 | 3分4秒6(33秒3) | 4着シックスセンス(34秒2) |
まずはディープインパクトの末脚の速さについて。表1は3歳クラシック三冠におけるディープインパクト自身の上がり3ハロン(いずれもメンバー中最速)および上がり3ハロン2位の馬を示したもの。一戦目の皐月賞はスタートでヨレて、序盤は最後方からの追走となった。しかし、3コーナー過ぎからマクるように馬群の外を進出し、2着シックスセンスに2馬身半差をつける快勝。上がりではシックスセンスを0秒2しか上回れなかったが、完勝といえる内容だった。
圧巻は日本ダービーと菊花賞。日本ダービーの上がりは2位に1秒差、菊花賞では0秒9差とどちらも大差をつけている。上がり3ハロンだけでも同世代の馬たちを凌駕していたことがわかる。ただし、ディープインパクトは上がり600mだけでなく、その前から脚を使っており、レース後半に速い脚を持続できたところに最大の特長があった。なお、ディープインパクトは国内の13戦すべてで上がり最速をマークしていた。
■表2 ディープインパクトとシンボリルドルフの三冠での単勝オッズ
レース名 | ディープインパクト(2005年) | シンボリルドルフ(1984年) |
皐月賞 | 1.3倍 | 1.5倍 |
日本ダービー | 1.1倍 | 1.3倍 |
菊花賞 | 1.0倍 | 1.3倍 |
続いてはディープインパクトの人気について。表2では三冠での単勝オッズを、史上初めて無敗のまま三冠馬となったシンボリルドルフと比べてみた。これによってどちらが強いかを比較できるわけではないが、ディープインパクトがシンボリルドルフ以上に単勝での支持を集めていたことがわかる。三冠ラストの菊花賞では、ついに単勝1.0倍。G1級レースにおける単勝元返しは、1984年のグレード制導入以後ではこの1回だけである。なおディープインパクトの単勝オッズは、最も高いレースでも1.3倍(皐月賞、05年有馬記念、ジャパンカップ)だった。
シンボリルドルフは国内15戦中、弥生賞が2番人気(1番人気ビゼンニシキ)、84年ジャパンカップが4番人気(1番人気ミスターシービー)で、他はすべて1番人気に支持されていた。いっぽうディープインパクトは国内13戦すべてで1番人気に支持された。これはナリタブライアンやオルフェーヴルといった他の三冠馬も記録していない偉業だ。
シンボリルドルフとディープインパクトは無敗での三冠達成以外にも共通点があり、まずはすべてのレースで同じ騎手が乗り続けていたことが挙げられる。シンボリルドルフには岡部幸雄騎手、ディープインパクトには武豊騎手という無二のパートナーがいた。また、三冠達成直後に古馬との初対戦となるG1で敗れている点(シンボリルドルフはジャパンカップ3着、ディープインパクトは有馬記念2着)も同じ。国内最後のレースとなる有馬記念を完勝している点も共通している。
■表3 ディープインパクトの3歳時と4歳時の比較
年度 | レース名 | 走破タイム(上がり3F) |
2006 | 有馬記念 | 2分31秒9(33秒8) |
ジャパンカップ | 2分25秒1(33秒5) | |
2005 | 有馬記念(2着) | 2分32秒0(34秒6) |
日本ダービー | 2分23秒3(33秒4) |
そしてディープインパクトの強さについて。表3では3歳時と4歳時における東京芝2400mG1ならびに有馬記念のタイムを比較してみた。日本ダービーとジャパンカップの時計比較では、同じ良馬場(馬場コンディションの微妙な違いはあるにせよ)で勝ちタイム・上がりともにダービーの方が速い。ジャパンカップ時は凱旋門賞以来のレースで、馬体重はデビュー以来最低の436キロ。帰国初戦ということもあり、状態も万全ではなかったのではないか。それでも2着ドリームパスポートに2馬身差をつける快勝を見せた。
有馬記念の時計比較では、3歳時は先に抜け出したハーツクライに半馬身届かず2着に敗れたが、ラストランとなった06年有馬記念では前年のタイムを0秒1更新して3馬身差の圧勝を演じている。上がりでも3歳時は上がり34秒6とこの馬にしては平凡で、三冠達成の疲労は少なからず残っていたのだろう。対して4歳時はジャパンカップから状態が上向いていたと見え、上がりでも前年を0秒8も上回っている。
「飛ぶように走る」と評された末脚の持続性、単勝オッズに見られる圧倒的な人気の高さ、過去の自分を超える精神力の強さ。このすべてを併せ持ったのがディープインパクトだった。
■表4 ディープインパクト産駒の東京芝2400mG1における勝利馬一覧
馬名 | 勝利したG1 |
ジェンティルドンナ | オークス(2012)、ジャパンカップ(2012,13) |
ディープブリランテ | 日本ダービー(2012) |
キズナ | 日本ダービー(2013) |
ミッキークイーン | オークス(2015) |
ショウナンパンドラ | ジャパンカップ(2015) |
シンハライト | オークス(2016) |
マカヒキ | 日本ダービー(2016) |
ワグネリアン | 日本ダービー(2018) |
ラヴズオンリーユー | オークス(2019) |
ロジャーバローズ | 日本ダービー(2019) |
最後に表4はディープインパクト産駒の東京芝2400mG1における勝利馬一覧。12年オークスを制したジェンティルドンナをはじめ10頭の優勝馬を輩出している。ダービー馬は5頭出ているが、そのうちディープブリランテ、ワグネリアン、ロジャーバローズの3頭は、父とは違って先行して勝利をおさめている。今年のダービーでロジャーバローズが2番手からレースを進めて押し切ったのは記憶に新しいところだ。長く速い脚を使えるというディープインパクトの特長を受け継ぎつつ、脚質も多様化している。
また、今年は大阪杯(アルアイン)、桜花賞(グランアレグリア)、天皇賞・春(フィエールマン)、オークス(ラヴズオンリーユー)、日本ダービー(ロジャーバローズ)と産駒がG1を5勝。なかでも天皇賞・春はこれまでなかなか勝てずにいたが、フィエールマンが勝利し、グローリーヴェイズが2着とワンツーフィニッシュを決めた。さまざまなタイプの産駒が出てきていた時期だっただけに急逝は非常に残念だが、キズナ産駒のビアンフェが先日の函館2歳Sを制するなど、今後は孫世代の活躍も見込まれる。
また、今年の凱旋門賞にはフィエールマン、ロジャーバローズの2頭が登録している。父の果たせなかった凱旋門賞制覇を産駒が達成できるのか、注目だ。平成から令和に時代は変わっても、ディープインパクトの伝説はこれからも続いていく。
ライタープロフィール
ケンタロウ(けんたろう)
1978年6月、鹿児島県生まれ。早稲田大学社会科学部卒業。初めて買った馬券が大当たりし、それから競馬にのめり込むように。データでは、開催日の馬場やコース適性に注目している。好きなタイプは逃げか追い込み。馬券は1着にこだわった単勝、馬単派。料理研究家ではない。