今年も1歳セッション、当歳セッションを合わせた総売上額で、過去最高を更新したセレクトセール。その躍進のきっかけとなったのは、1歳セッションにおける上場番号1番のヤングスターの2022(牡、父キズナ)から、上場番号4番のインクルードベティの2022(牡、父キタサンブラック)まで、4頭連続でのミリオンホース(1億円以上の取引馬)誕生によるところも大きい。
筆者は第1回セレクトセールから取材をしているが、ミリオンホースが4頭続けて誕生するなんて見たことが無い。しかも、その日の最初の上場馬から、立て続けに電光掲示板が1億を超えていった時には驚きと共に、どこか高揚感さえ覚えた。
それは会場内の購買者も一緒だったのかもしれない。これまでのセレクトセールならば、おおよそ50番台と100番台にリザーブ価格が高く設定された馬が並んでいた。だが、今年のセレクトセールの名簿を見ると、ミリオンを超えた4頭の上場馬以降にも、ブラックタイプを多数抱えていたり、もしくはサイヤーランキングの上位種牡馬の産駒が、セリの序盤から続々とラインナップされていた。
この1歳セッションの最高額馬となったのはインクルードベティの2022と、パレスルーマーの2022(牡、父シルバーステート)で、共に3億1000万円。また、コスモポリタンクイーンの2022(牡、父Kingman)も3億円となったが、この3頭は全て上場番号20番以内の落札馬だった。
ここまで目玉となるような上場馬が早く上場されてしまえば、あとは尻すぼみとなるのが普通のセリなのかもしれない。ただ、セレクトセールの1歳セッションは序盤の勢いが衰えることなく、そのまま最後の上場馬まで持続し続けた。
1歳セッションにおけるミリオンホースの頭数は28頭。これはセレクトセール2021と並び、セール史上最多タイ記録となる。また、驚くべきはその売却率で、97.3%は前年の95.3%を超えるセールレコード。なんと、上場番号90番のロウカムの2022(牝、父West Coast)から、上場番号228番のソングライティングの2022(牡、父ワールドエース)まで、132頭連続での落札となり、これもまたセレクトセール新記録となった。
1頭あたりの平均落札額の約6188万円も1歳セッションのセールレコードであり、当然のように売却総額も昨年の128億7000万円を約5億円上回り、過去最高の133億6500万円を記録した。セリ終了後に取材に応じた日本競走馬協会の吉田勝己理事(ノーザンファーム代表)は、以下のようにコメントした。
「高い売却率にも証明されたように、全ての上場馬に声がかかったような印象を受けました。それでいながら、最初の一声で終わるような馬も少なかったように、最初から最後まで活発な取引が行われたと思います。これには血統、馬体共に良質な上場馬を1頭目から揃えたことも大きいと思います。景気が良くなっていることが、この結果に繋がっていると思いますし、明日も良質な馬が揃っているだけに、素晴らしいセリになると思います」
そして迎えたセレクトセール2日目は、その吉田勝己理事が話していた「素晴らしいセリ」どころか、「物凄いセリ」となった。
午前8時から行われた展示で注目を集めていたのが、前日の1歳セッションで6頭の上場馬全てが売却され、一頭あたりの平均価格が約1億6283万円を記録したキタサンブラック産駒と、この当歳世代が初年度となるコントレイル産駒。後者はこの当歳セッションの種牡馬別では最も多い20頭が上場され、展示ではどの産駒たちも多くの購買者の視線を集めていた。
この日、最初の上場馬となったのは、キタサンブラック産駒のファディラーの2023(牡)。活発な競りが行われた結果、3億8000万円で落札されると、この日、最初のコントレイル産駒のモアナの2023(牡)が1億7000万円で落札された。
その後もキタサンブラック産駒、コントレイル産駒からミリオンホースが次々と誕生していく中、バイバイベイビーの2023(牡、父コントレイル)がこの日2番目となる3億3000万円で落札。そして、本日の最高価格となる5億2000万円で落札されたのも、コントレイル産駒のコンヴィクション2の2023(牡)だった。鑑定人が1億円をコールしてからは、1000万円単位で数字が更新されていき、セレクトセール歴代3位の高額落札馬となった。
「競り上がっていきましたが、引くに引けないほどに良い馬でした。この馬だけでなく、牧場で誕生しているコントレイル産駒も素晴らしい馬ばかりです。評価は高くなりましたが、必ず活躍してくれると期待しています」
と、ノースヒルズの前田幸治代表が語ってくれた。
新種牡馬としてセンセーショナルな売り上げを記録したコントレイル、上場馬が続々とミリオンを超える取引が行われるキタサンブラックに影響されるように、エピファネイア、キズナ、ロードカナロアといったセレクトセールで高額落札馬を輩出してきた種牡馬の産駒もまた、ミリオン以上の取引馬を続々と送り出していく。その結果、取引されたミリオンホースの数は35頭となり、1歳セッション、当歳セッションを合わせて、一開催日あたりの取引馬の数では過去最高となった。
売却率の94.8%は、過去最高となった前年(95.3%)には及ばなかったものの、1頭あたりの平均落札額の約6749万円もセールレコードとなったことで、総売上額の147億8000万円は当歳セッションの最高額どころか、セレクトセールの一開催日当たりの総売上額でも史上最高額となった。2日間を合わせた総売上金額も281億4500万円となり、これもセールレコードを記録した前年(257億6250万円)を大きく上回った。
まさに記録的な2日間となった今年のセレクトセールだが、日本競走馬協会会長代行の吉田照哉氏(社台ファーム代表)は、
「驚きに近いセール結果だと思います。購買者の皆さんの競馬に対する思いの強さが、このセールから馬を選び取りたいという気持ちに繋がった印象を受けます。当歳セッションを沸かせたコントレイル産駒は、総じてしっかりとした印象があるだけでなく、見栄えのする馬体をしていました。また、三冠馬の産駒というイメージの良さが残ったまま、当歳セッションに臨めたことも活発な取引に繋がった印象を受けます」
と笑顔を浮かべながらセールを振り返っていた。
注記:金額は、全て税抜金額
ライタープロフィール
北海道在住の“馬産地ライター”として、豊富な取材をもとに各種競馬雑誌で活躍中。