7月25日と26日の両日にわたり、新ひだか町の北海道市場で開催されたセレクションセール2023(日高軽種馬農業協同組合主催)は、まさに記録づくめのストロングマーケットとなった。
2日間を通しての売却率は過去最高となる約91.9%を記録。平均落札額は約2083万6531円となっただけでなく、売却総額も56億4670万円と、全ての数字に置いてレコードを更新した。また、1日目の上場馬となったカリーニョミノルの2022(父シニスターミニスター)は、セレクションセール史上2位となる9400万円で落札された。
7月10日と11日の2日間にわたり、苫小牧市・ノーザンホースパークで開催されたセレクトセール2023(日本競走馬協会主催)も、1歳セッション、当歳セッション共にほぼ、全ての数字でレコードを更新。その熱気は二週間後のセレクションセールにも届けられたと言える。
ただ、セレクションセールが大盛況となり得たのは、セレクトセールをはじめ、近年における国内の競走馬市場の好況だけにもたらされたものではない。
年々売り上げを伸ばしているセレクションセールであるが、その間にはコロナ禍による開催時期の変更もあれば、2022年からは上場頭数を拡大し、2日間に分けてせりを開催するなど、様々な変革を行ってきた。
主催する日高軽種馬農業協同組合だけでなく、生産者もまた、上質な上場馬を送り出すための努力を惜しまなかった。それがセールへの信頼となっていき、その信頼の積み重ねが、セレクションセールの「ブランド力」を高めたとも言える。
また、せりの数か月前から血統を基準とした上場馬の選定だけでなく、実際に日高軽種馬農業協同組合の職員が牧場に出向いての実馬検査を行い、最終的な上場馬を決めており、その選定もセールの活況に繋がっている。
セール初日は最高額となったカリーニョミノルの2022の他にも、ポウリナズラヴの2022(牡、父キズナ)が9000万円で落札されたが、この2頭を含めた高額落札馬のトップ10が、全て異なった種牡馬となっている。
セール2日目も、この日の最高額馬となる6000万円の評価が与えられたストライクルートの2022(牡)と、4800万円で落札されたスマッシュの2022(牡)の父がエピファネイアで一緒であるが、他の8頭は芝、ダートのリーディング上位種牡馬の産駒から、デビュー前の種牡馬の産駒まで、多種多彩にわたっている。
血統と馬体を重視しながらも、今日における産駒の活躍と、話題性も加えたかのような上場馬の選定が、様々な購買関係者のニーズを受け止めたとも言える。そこに更なる付加価値を付けたのが、上場馬を送り出した生産者や、コンサイナー(※注釈1)の馬作りと言えるだろう。
(※注釈1)
コンサイナーとは、生産馬をせりに上場する際、生産者に代わって上場馬の仕上げ・管理を行う業者のこと。
初日、2日目ともに最高額馬を送り出したのは、新ひだか町のフジワラファーム。同牧場はセレクションセールにおいて、毎年のように高額落札馬を送り出しているが、それは血統背景にも証明されているように、牧場でもトップクラスの血統馬をセレクションセールに送り出している証である。そして、せりに向けての質の高い管理を行った結果、数年にわたって足を運んでいる購買関係者からも、高い評価を得ている。
他にも毎年のように、セレクションセールで高額落札馬を送り出す牧場や、コンサイナーの管理馬を目にする。それは個々の生産牧場やコンサイナーから、上場馬をチェックしていく購買関係者が必ずいるという証。こうした生産牧場やコンサイナーもまた、「ブランド力」を持っているとも言える。
「ブランド力」は競走成績としても証明されてきた。セレクションセール2019の取引馬であるジャックドールは、今年の大阪杯を優勝。その他にも取引馬たちは毎年のように中央競馬の重賞で勝ち鞍を重ねている。今年の取引馬たちもまた、中央の重賞やクラシックを沸かせるだけでなく、来年から始まっていく3歳ダート三冠競走を沸かせている可能性は高い。
古川雅且市場長はセール後の会見で、
「売却総額に驚きと感謝の気持ちがありますが、何よりも2日間を通して売却率で90%を超えたのが嬉しく、それはセレクションされた上場馬に総じて、活発なお声がけをいただけたと思っています。上場馬の質も年々高まっており、特に今年はダートサイアーの産駒にも高い評価をいただけました。改めて購買者の皆さんには感謝しております」
と話した後に、サマーセールといった日高軽種馬農業協同組合が主催する定期市場への来場も呼び掛けていた。そのサマーセールからは、今年の南関東三冠馬となったミックファイアなど、現3歳世代だけでも数多くの重賞馬が誕生している。セレクションセールからの熱気は、間違いなくサマーセールにも伝播されることとなりそうだ。
注記:金額は、全て税抜金額
ライタープロフィール
北海道在住の“馬産地ライター”として、豊富な取材をもとに各種競馬雑誌で活躍中。