セレクションセール2021
セレクションセール2021 総括
売却総額の36億5070万円だけでなく、売却率の86.32%、そして1頭あたりの平均落札額が1807万2772円と、せりの指標を示す全ての数字、もしくはポイントにおいて過去最高を記録した「セレクションセール2021」。上場番号1番のマトゥラー2020(牡、父ルーラーシップ)に対する最初の一声は、オンラインビッドの電子音で始まった。それは、史上空前のストロングセールの始まりを告げる福音だったのかもしれない。
昨年(2020年)は、新型コロナウイルス感染症の拡大防止を図るべく、当初予定されていた日程から、約1か月後に開催日を移行したセレクションセール。それはセレクションセールの翌日から行われたサマーセールと連動化しつつ、サマーセールとの違いを購買者にアピールすることにもなり、結果としては双方のせりで売り上げがアップするという相乗効果をもたらした。
しかしながら、主催者である日高軽種馬農業協同組合(以下、HBA)は、今年のセレクションセールを、一昨年(2019年)と同様に7月中の開催に決めた。この日程により、今度はセレクションセールが、先に行われたセレクトセール(日本競走馬協会主催)と連動し、そして比較をされる立場となった。
オンラインビッドの電子音で始まった上場番号1番のマトゥラー2020が落札されると、そこから上場番号10番のメイショウボーテ2020(牝、父キズナ)まで、10頭連続で落札が続いていく。その後も会場内にはスポッターのコールがこだまし、売却率は驚異の90%台をキープ。そしてこの日、最初の4000万円超えの取引馬(4600万円)となったのが、上場番号27番のイチリュウ2020(牡、父ヘニーヒューズ)だった。
イチリュウ2020の販売者である(有)グランド牧場の濱田康一イヤリングマネージャーは、
「管理を手がけた頃からバランスのいい馬体をしており、その後も順調に成長を遂げてくれました。これだけ高い評価を受けたことは光栄ですし、重賞といった大きな舞台で活躍できる競走馬になってもらいたいです」
とエールを送った。
その後も、上場番号44番のアメージングムーン2020(牡、父ドゥラメンテ)と、上場番号50番のスズカエルマンボ2020(牡、父ドレフォン)が共に4200万円と、4000万円を超える落札馬が誕生していく中、今年のセレクションセールの主役となったのが、昨年、今年とクラシックウイナーを誕生させたエピファネイアの産駒たちだった。
この日最初の上場馬となった、上場番号3番のツクバエルドラド2020(牡)が3100万円で落札されて産駒の評価を高めていくと、上場番号48番のヘラルドスクエア2020(牡)が4100万円。上場番号58番のヴェルジョワーズ2020(牝)は牝馬ながら、2800万円で取引されていく。
そして、この日2頭目の4500万円超えの落札馬となったのもエピファネイア産駒で、上場番号96番のアガサ2020(牡)。4600万円の落札額は、イチリュウ2020と並んで、この日の落札額4位タイとなった。
取材に応じた、アガサ2020の販売者である前谷牧場の前谷卓也氏は、
「昨日、今日と暑い中でも多くの購買関係者の皆さんが見に来てくれたので、まず、そのことがうれしかったです。エピファネイアは好きな種牡馬でしたし、母とも相性が合うと思っていました。この高い評価もまた、うれしいの一言ですし、オーナーの期待に応えるような競走馬になってもらいたいです」
と顔をほころばせた。
その後も、エピファネイア産駒は、上場番号116番のスイートハート2020(牝)が4200万円で落札。産駒の平均落札額は3000万円台を優に超えていく。
半兄のスマッシャー(牡3歳、栗東・吉岡辰弥厩舎)が6月のユニコーンSを優勝。セールを前にして、血統的な評価がさらに高まったスマッシュ2020(牡)は、最初の一声で1500万円の数字が掲示されると、100万円刻みで数字が書き換わっていく。せりが白熱していくにつれて、競り上げ額も200万円単位に変わっていく中、5400万円で鑑定人のハンマーが落とされた。
スマッシャー、そしてスマッシュ2020も育ててきた(有)宮内牧場の宮内慶専務は、
「母は配合種牡馬によって、芝、ダートの双方で活躍馬を送り出しています。それだけに勝負をかけるべく配合したエピファネイアでしたが、馬体のラインの綺麗な産駒が出てくれましたし、下見に来てくれた方から、口々に『いい馬だね』との言葉をかけてもらえたことも、うれしかったです」
と笑みを浮かべていた。
そして、この日の最高額となる6000万円の評価を受けたのも、やはりエピファネイアの産駒だった。上場番号154番のスリーアロー2020(牡)は、前日の下見でも多くのバイヤーが高い評価を送っていた好馬体の持ち主。その馬体は、鑑定台に立った際により際立つこととなり、鑑定人の読み上げる金額は、この日、初めて6000万円に達した。
スリーアロー2020の販売者である(有)フジワラファームの中期育成責任者、田中正太郎氏は、
「産まれ落ちたときから素晴らしい馬でした。その好印象を保ったまま馬体も雄大になっていき、期待通りの成長を遂げてくれました。また精神的な強さだけでなく、頭の良さも備えているところが、この馬の長所だと思います」
と競走馬としての魅力を語った。
せりの後半となると、90%台をキープしていた売却率も80%台後半に落ち着き、3000万円を超えるような競り合いが減っていく中、先に行われたセレクトセールでも産駒が高い評価を受けていたシルバーステート産駒で、半兄に京成杯の勝ち馬プレイアンドリアルを持つ上場番号237番のシルクヴィーナス2020(牡)が4100万円で落札。
そして、今年のセレクションセール最後の上場馬となった、上場番号240番のレディパッション2020(牡、父キンシャサノキセキ)が2000万円で取引されたことで、関係者が一つの目標と定めていた、税込みでの40億円市場(40億1577万円)を達成する運びとなった。
せりの終了後、スムーズなせりの運営を行ってきたHBAの関係者は、一様に充実感あふれる表情を浮かべていた。防疫面において前年で得たノウハウを生かしただけでなく、オンラインビッドといったハイブリッド方式を取り入れながらのせりも何ら問題がなかったように、いくつもの指針をやり遂げたという達成感もあったのだろう。
その思いは、せりの終了後の記者会見に応じた、木村貢市場長の表情にも表れていた。
「前日展示から多くの購買関係者の方に足を運んでいただき、昨年ほどの数字を残せるのではと思っていましたが、その予想をはるかに超えるような結果となり、驚きと共に、大変うれしくも思っております。今年は上場馬の1頭目からせりが活発に動き出し、運営する自分たちにとっても心強いスタートとなりました。これも生産者の皆さん、そして職員たちの日々の努力の結果が表れたと言えますし、購買関係者の皆さんも含めて感謝しかありません」
と木村市場長はセールを振り返った。
オンラインビッドの登録者数48名も含めた購買登録者の数は886名。これは単独開催だった一昨年のセレクションセールの購買登録者の687名よりも約200名の増となった。中央だけでなく、地方競馬でも馬主の数が増えている現状もあるとはいえ、その新規のバイヤーたちが、せりで馬を買うといった「文化」が成立している証とも言えよう。
せりの後、このセールに生産馬を上場していた牧場主と話をしたときにも、「文化」という単語が聞こえてきた。
「セレクションセールだけでなく、近年のせり結果を見て思うけど、せりで馬を選んでいくことが、競馬の文化になっているよね。その文化を作っていくために、生産者もいい繁殖牝馬を導入して、種牡馬を吟味して、いい養いをして、せりで色々な人に見てもらう。文化だけに、この流れを途切れさせるわけにはいかないし、サマーセールにもいい馬を連れて行きますよ」
と話した牧場主は、あいさつ代わりに右手を軽く上げて会場を立ち去っていった。
新型コロナウイルス感染症の脅威はまだまだ続くが、それでも活発な取引だけでなく、様々な人の交流も行われながら、せりという「文化」をより広く発信してほしい。
(文:村本浩平)
注記:金額は全て税抜き
ライタープロフィール
村本浩平(競馬ライター)
北海道在住の“馬産地ライター”として、豊富な取材をもとに各種競馬雑誌で活躍中。