セレクションセール2021

セレクションセールの歴史

昨年は、新型コロナウイルス感染症の拡大防止を図るべく、当初、開催を予定されていた7月21日から約1か月後の8月24日に開催を移行したセレクションセール。

セレクションセール翌日の8月25日から28日までの4日間は、サマーセールも開催。主催者である日高軽種馬農業協同組合(以下、HBA)の職員をはじめとする関係者だけでなく、場合によっては販売者、そして購買者も、長期にわたってせりに参加することになった。

コロナ禍前は誰もが想定していなかった、セールの連続開催にもかかわらず、セレクションセール、サマーセールともに売却総額と平均価格の双方で、従来のレコードを更新。サマーセールでは最高額馬も誕生するなど、驚異的な売り上げを記録した。

アルクトス 2020年マイルチャンピオンシップ南部杯

アルクトス
2020年マイルチャンピオンシップ南部杯
「セレクションセール2016」1歳(1900万円)

この好況については、複数の要因が、セレクションセール、サマーセールの双方にメリットをもたらしたと考えられる。その一つが、コロナ禍でも衰えなかったバイヤーの購買意欲だ。セレクションセールに関しては、先に開催されていたセレクトセールと日程が離れたことで、バイヤーに熟考する時間を与えただけでなく、その時間が上場馬たちへの期待感を膨らませた。

また、セレクションセールとサマーセールという、異なったニーズのせりを連続開催したことにより、結果的に海外のせりで取り入れられている「ブック1」「ブック2」といった対比を、双方のせりに持たせることにもなった。

しかも、好況にわいたセレクションセールで上場馬を購入できなかったバイヤーが、そのままサマーセールに流れて行く、「シャワー効果」のような流れが生み出されて、それがサマーセールにおける高額落札馬の誕生につながったとも言える。

筆者としては、これらの複合的な効果や、セレクトセールとの違いを出すためにも、セレクションセールとサマーセールの連続開催が今年も行われてもいいのでは、と思ったこともあった。

しかしながら、現実的にはバイヤーが1週間近くせりに参加するのはほぼ不可能であり、また販売者も、牧場の仕事をしながら、せりに常に顔を出すのは困難と言える。何より、昨年はこの驚異的なスケジュールをクリアしたとはいえ、HBA職員などの関係者の準備や疲労を考えると、運営面に支障をきたす可能性もある。

そう考えると、HBAの関係者たちは、昨年のセレクションセールとサマーセールを、よくぞ運営しきったと思う。来場者の限定をはじめとする、様々な感染防止対策を練った中での開催は、長期にわたるセールの運営以上に大変なことも多かったはずである。

両セールにおける記録的な売り上げは、せりの主催者として高く評価されるべきだが、それ以上に準備期間も含めれば、5日間以上にわたって不特定多数の人間がせり会場に集まったにもかかわらず、クラスターどころか、ひとりも感染者を出さなかったことは、それ以上に賛辞を送るべきであろう。

セレクションセールとサマーセール以降も、セプテンバーセール、オータムセールとコロナ禍のせりを経験したことで、せりの運営だけでなく、防疫対策におけるノウハウもHBAの関係者には蓄積されている。

しかも、昨年のオータムセールで行われたオンラインビッドシステムの実証実験は、今年のHBAトレーニングセール(5/11・札幌競馬場)で取り入れられたハイブリッド方式(通常のせりとオンラインビッドの融合)のせりでも円滑な進行が行えることを証明する形となった。コロナ禍で会場に来るのは難しいというバイヤーも、オンラインビッドでせりに参加しようという、前向きな気持ちを作り出したはずだ。

HBAの定期市場における今年最初のセールとなったHBAトレーニングセールでは、活発な取引が行われたが、セレクションセールは、他の定期市場とはまた位置付けが違っている。

今年、7月27日(火)に開催されるセレクションセールは、この日から10月のオータムセールまで、北海道市場で開催される定期市場の物差しとなるセールでもあり、セレクションセールが盛況となれば、その後の定期市場がほぼ好況で流れていくのは、過去のせり成績によって証明されている。

シゲルピンクルビー 2021年フィリーズレビュー

シゲルピンクルビー
2021年フィリーズレビュー
「セレクションセール2019」1歳(2800万円)

今年も、血統、馬体とまさに「セレクション」された上場馬がそろった。実際に現場に足を運んでも、馬の管理の良さが上場馬のコンディションの良さとして表れており、それが年々、レベルアップしているような印象さえ受ける。それは、セレクションセールから良質な馬を探し出したい、というバイヤーの信頼感にもつながっており、また活発な取引にもつながっているのだろう。

昨年の経験は決して無駄なことではなかった。むしろ状況の変化に、迅速かつ柔軟に対応できたノウハウは、今後の定期市場の運営にもつながっていくだろう。また、今年のセレクションセールでも実施されるハイブリッド方式のせりは、アフターコロナのせり市場で、重要な役割を果たしていく可能性もある。

歴史を積み重ねながら、さらに進化していくセレクションセール。今年のセールの取引馬から、歴史的な名馬が出てきても何ら不思議ではない。

注記:金額は、全て税抜金額

ライタープロフィール

村本浩平(競馬ライター)

北海道在住の“馬産地ライター”として、豊富な取材をもとに各種競馬雑誌で活躍中。

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