セレクトセール2021
セレクトセール2021 総括
何かを成し遂げようとした時に、完璧であること、そして究極であることは、一つの目標となる。
今年のセレクトセール2021は、1歳セッション、当歳セッションを合わせた落札率の93.0%が「完璧」にまた一歩近づき、そして2つのセールを合わせた総売上額の225億5600万円は、従来のセールレコードを大きく更新する「究極」となった。
ただ、「完璧」や「究極」に近づけば近づくほど、その数字をキープすることだけに注目が集まり、興味も失われていく。しかしながら、セレクトセールに対峙する我々が、毎年、興味と期待を持ってセールを追いかける理由。それは新たな上場馬の血統や、高額落札馬に代表される、未来のスターホース候補の「変化」が、セールの中でのドラマとして見えてくるからだろう。
今年のセレクトセールにおける1つのドラマが、1歳セッションの上場馬がラストクロップとなった、ディープインパクトの産駒たちである。2020年に誕生し、血統登録された6頭の産駒のうち、4頭が姿を見せたこのセールは、まさにディープインパクト産駒を手に入れる、最後のチャンスとなったわけだが、そのうち3頭が落札。上場番号1番として登場したゴーマギーゴーの2020(牡)は、この日の1歳セッションの最高額タイとなる3億円の評価を受けた。
セレクトセール2021の1歳セッションにおける最後の上場馬であり、セレクトセールに上場される最後のディープインパクト産駒ともなった、上場番号248番のスイープトウショウの2020(牡)が鑑定台に姿を見せた時、第1回のセレクトセールから鑑定人を務めてきたノーザンファームの中尾義信氏が、父ディープインパクトがこのセールに上場された時の思い出を語り出す。
「ディープインパクトは2002年、第5回セレクトセール当歳市場の初日の上場馬となります。小さな背中の馬ではございましたが、その後、日本に素晴らしい蹄跡を残し、そして、その産駒たちは、日本の競馬を大いに盛り上げております」
その言葉を聞いた誰もがディープインパクトと、セレクトセールが長きにわたって紡ぎあげてきたドラマを再確認したに違いない。2億円ちょうどでハンマーが落とされた瞬間は、セレクトセールの歴史における象徴的な出来事として、今後も語り継がれていくはずだ。
一方、「変化」と言う意味では、当歳セッションで4億1000万円という、セレクトセール史上6位となる評価額がされた、上場番号428番セルキスの2021(牡、キズナ)に代表される、ディープインパクトになり替わる新たな種牡馬の躍進。その中でも、当歳セッションでは、この世代が初年度となる新種牡馬の産駒が活発に取引された。
特に活発な取引が行われたのがレイデオロの産駒で、上場された15頭全てが売却され、上場番号403番のリンフォルツァンドの2021(牡)が1億8000万円で取引されるなど、高い評価を受けた。また、ブリックスアンドモルタル産駒も、7頭の上場馬の全てが売却され、上場番号464番のランズエッジの2021(牡)が1億500万円とミリオン超えの評価を受ける。同様にスワーヴリチャード、ニューイヤーズデイの産駒に対しても、活発な取引の声がかかり続けた。
「変化」という意味のもう一つとしては、昨年(647名)を更に上回る、750名以上の購買登録者数があり、その中でも1歳、当歳を合わせて18頭を落札。その総額が23億6200万円となった藤田晋氏に代表される、新規のバイヤーの存在も欠かせない。
過去最高となった落札率、そして平均価格もまた、新規のバイヤーが入ってきたことによる活況がもたらしたのは間違いなく、今後も魅力的な上場馬をラインナップしていくことで、更にその数は増えていき、そしてこれまで以上の盛り上がりを見せるセールが開催されていくはずだ。
来年のセレクトセールもまた、「完璧」に近づき、そして、「究極」の数字を残していくのは想像に難くない。だがそれは、これまで積み重ねてきた24年の歴史があってのことでもあり、その時々で起こる「ドラマ」を、この目で見たいという興味は、今後も尽きそうにない。
(文:村本浩平)
注記:金額は全て税抜き
ライタープロフィール
村本浩平(競馬ライター)
北海道在住の“馬産地ライター”として、豊富な取材をもとに各種競馬雑誌で活躍中。