セレクションセール2020
セレクションセール2020 総括
新型コロナウイルスの感染拡大防止を図るべく、当初予定されていた日程から約1か月ずらしての開催。また、購買登録は事前申し込みのみとなり、随行者も1名に限定。様々な変更点、そして制限下の中で行われた今年のセレクションセール。それらはセールにとって逆風になるのではと思われたが、結果としては、売却総額(32億6300万円)、産駒一頭あたりの平均価格(1773万3696円)で共にレコードを更新するストロングマーケットとなった。
逆風が追い風と変わりそうな要素は、せりの前からいくつか見られていた。そのひとつが、事前購買登録者の人数。昨年のセレクションセールでは687名だったその数は、今年はその倍近くとなる1300名を超えた。
これは、セレクションセールの翌日から4日間にわたって行われるサマーセールの購買登録者も含んだ数字である。実際に昨年のサマーセールの購買登録者は1127名であり、今年のセレクションセールの購買登録者数と似通った数字になっている。
サマーセールでの購買を考えていたバイヤーの中には、その前に行われるセレクションセールにも足を向けてみようと思うのは自明の理でもあり、その中にはせりに参加したバイヤーもいたはず。活発な取引が行われていく下地は、この時点で出来上がっていた。
セレクションセールの前に行われていた各市場で、軒並み活発な取引が行われていたという背景も見逃せない。今年の北海道内の競走馬市場では初めてとなる、せり会場内に購買者を招き入れてのせり開催となったセレクトセール(7月13日〜14日)が円滑な進行で行われたことによって、セレクトセールと同様の形式で行われることになったセレクションセールへの機運が高まった。
また、開催日程が延期されたことによって、セレクトセールから約1か月半間隔が空き、購買者の期待感はさらに膨らんだ。そして上場馬たちも、より素晴らしいコンディションでせりに臨めるようになった。この日、セレクションセールが開催された北海道市場は、購買者の入場ゲートが2か所に限定され、そこでは検温と消毒が行われていたが、その向こうに広がる比較展示スペースには、最高のコンディションでこの場に臨んできた上場馬たち。そして、多くの購買関係者たちの姿があった。
今年のセレクションセールがストロングマーケットとなる要素はいくつもそろっていたのだが、それに拍車をかけたのが、この日、最初の上場馬となるピエールドリュヌ2019(牡、父オルフェーヴル)だった。700万円の最初の一声がかかると、場内の至る所からスポッターの声がこだましていく。3700万円に電光掲示板の数字が書き換わってからしばらくして、鑑定人のハンマーが落とされたが、今年のセレクションセールを活気づけるのに、最高のスタートダッシュとなった。
その後も17頭連続(上場番号3番〜19番)で売却されるなど高い売却率が維持されていく中で、上場番号21番のゴールドコイン2019(牡、父ロードカナロア)が、このセール最初の5千万円以上の取引となる5200万円で落札。この取引以降、3千万円台、4千万円台といった取引の声も珍しくなくなっていく。
そのゴールドコイン2019の最高額の数字を書き換えたのが、このセレクションセール唯一のディープインパクト産駒である上場番号91番のティズウインディ2019(牝)だった。最初の一声はこのセールで最も高い4000万円だったが、そこから数字を上げていき、5800万円で落札される。販売者となった(有)酒井牧場は、今年のセレクションセールに6頭の生産馬を上場。うち5頭が落札されただけでなく、ティズウインディ2019の他にも、上場番号125番のスマッシュハート2019(牡、父キズナ)が6000万円、上場番号160番のココロノアイ2019(牡、ロードカナロア)が4600万円で取引されるなど、活発な声がかかり続けていた。
これは牧場の有する優秀な牝系だけでなく、配合された種牡馬の魅力、そして見事な馬体にも証明された管理が、上場馬の魅力を高めたと言えるだろう。同様に、このセールでは血統背景や馬体と、まさに「セレクション」された上場馬がそろっていた。こうした上場馬たちの活発な取引が相乗効果となるかのように、せりはますます白熱していき、次から次へと高額落札馬を誕生させていく。
その中で、この日最高額の取引馬となったのが、上場番号155番のキルシュワッサー2019(牡、父ドゥラメンテ)。7200万円という落札額は、セレクションセール史上でも2位である。
セールの後、キルシュワッサー2019の販売者である(有)天羽禮治牧場の天羽里美さんは取材に答えて、
「皆さんに声をかけていただいて、あっという間にせりが終わった感じがあります。この評価額は信じられない思いがしますし、本当にうれしいです」
と笑顔を見せていた。同様に高額落札馬を送り出した生産者に話を聞かせてもらったが、一様に
「信じられない、ビックリした」
といった言葉が返ってきたように、誰もが心のどこかで、今回のセレクションセールは、逆風が吹くことを覚悟していたのではないだろうか。
7時間を超える開催となったせりは後半になってもその勢いが衰えず、上場番号209番のプリモタイム2019(牡、父ヘニーヒューズ)が4900万円、上場番号217番のクイーンオリーブ2019(牡、父モーリス)が4600万円で落札されるなど、高額落札馬の誕生が続いた。セールレコードを更新した売却総額、平均価格の一方で、売却率の82.51%は前年(83.47%)よりわずかながら数字を落としたものの、昨年は1頭もいなかった4千万円以上の取引馬の数が今年は10頭。うち5千万円代の取引馬が2頭、6千万円代が1頭、7千万円代が1頭を数えた。
この結果は、主催者である日高軽種馬農業協同組合(HBA)の関係者の努力によるところが大きい。今年は2歳トレーニングセールの中止や、セレクションセールの開催時期変更における業務の変更といった、様々な困難の中でのせり開催を強いられていた。また、せりの開催中にもコロナ禍での防疫対策など、気を遣うことも多かったはずだ。改めて、関係者の皆さんには無事に今年のセレクションセールが終わったことへの感謝と、労いの言葉を贈りたい。
それは、このセールを共に作り上げた販売者も一緒である。開催日程が延びたにも関わらず、上質な馬をこの場所に最高の状態で臨ませたからこそ、史上空前の盛り上がりとなったことは間違いない。高額落札馬の誕生に驚いた生産者の方も多くいらっしゃったが、それは、販売者が、それだけの評価に値する馬を生産し、育てあげてきた証と言えるだろう。
セールの後、テレビの中継に臨んだ木村貢市場長は、
「予想以上の結果に感激しています」
と話した後で、
「2歳戦で様々な種牡馬の産駒が勝ち上がりを見せていることが、日高の生産界の追い風になっている気がします。そして、生産者の方が配合する種牡馬を研究し、見極めながら、良質な産駒を誕生させていることも大きいのではないのでしょうか」
とも語った。8月25日からは4日間にわたり、同じ北海道市場でサマーセールが開催される。セレクションセールがサマーセールの盛り上がりに一役も二役も買っていくような結果となったのは間違いなく、この後に行われるセプテンバーセール、オータムセールにも良い影響を与えていくことだろう。
(文:村本浩平)
注記:金額は全て税抜き
ライタープロフィール
村本浩平(競馬ライター)
北海道在住の“馬産地ライター”として、豊富な取材をもとに各種競馬雑誌で活躍中。