セレクトセール2020
セレクトセール2020 総括
筆者はセレクトセールの1週前、繁殖馬のセールを別とすれば、今年、国内では初めて人と馬が1つの場所に集まった「八戸市場」にも足を運んでいる。
今年の「八戸市場」は、「セレクトセール2020」と同様に、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を防ぐべく、入場制限をはじめとする様々な対策が取られていた。それでも、昨年を上回る購買登録者数があったように、コロナの影響を感じさせないほどの盛況となった。
その光景に目をこらしていたとき、北海道からせりを見に来ていた、知り合いの生産者が話しかけてきた。
「せりが好きな人は、実際に会場で馬を見た上でせりに参加したいんだよ。きっと来週のセレクトセールもにぎわうと思うよ」
その生産者の言葉は現実となった。セレクトセール2日間を通しての落札総額は187億6200万円を記録したが、これはセレクトセール史上、歴代2位(1位は昨年の205億1600万円)の売り上げとなった。購買登録者の数647名は、前年(688名)よりも数を減らしたものの、今年から取り入れられた「せり受付専用電話」でせりに参加した購買登録者の数は8名となった。また、会場には来ていなかったものの、代理人を会場に派遣して上場馬を落札した購買者の数は、それ以上の数がいたと思われる。
国内の競走馬市場が中止か延期、もしくは開催方法の変更となっていた状況下でも、セレクトセールは当初から決められていた日程での開催を続けるために、水面下での努力を続けてきた。4月16日より日本国内の全都道府県で「緊急事態宣言」が出されたが、5月25日に同宣言が解除。6月19日に移動の自粛が解除されると、それ以降は、牧場に上場馬の下見に来る購買関係者の数も日に日に増えていったという。こうした主催者や上場者の前向きな思いが、購買関係者へも伝わり、コロナの影響などを全く感じさせないほどの活況につながったことは間違いないだろう。
新型コロナウイルス感染症の影響で、日本では様々な物事が止まってきた、もしくは休止せざるを得なかった中で、競馬は止まることなく、ずっと開催を続けてこられた。それも関係者の努力によるところが大きいが、だからこそ、購買関係者の競馬に対する思いや、より優れた馬を手に入れたいという思いも途切れなかった。
今年のセレクトセールで唯一、途切れたことは、これまで日本競馬界やセレクトセールを牽引してきた、キングカメハメハ、ディープインパクトの産駒たちの姿が、当歳セッションになかったことである。しかしながら、この当歳世代が初年度産駒となる新種牡馬の産駒たちが、今年のセールでも軒並み高評価を集めた。また、次代のリーディングサイアー候補たちにも、活発な取引の声がかかっていた。
長きにわたる競馬において、名馬の残した記録や歴史はいつか途切れる。しかしながら、また新たな名馬が記録や歴史を更新していく。今年で23年目となったセレクトセールであるが、大種牡馬サンデーサイレンス亡き後にも、キングカメハメハやディープインパクトが出てきたように、来年以降はまた新たなセールの主役となる存在が出てくるに違いない。
23年目のセレクトセールは、その歴史において1つの転機を迎えた。それでも従来通りの、いやそれ以上と言えるモンスターセールとなった。そしてこの勢いは、まだこれからも止まることはなさそうだ。
日本競走馬協会会長代行を務める吉田照哉氏(社台ファーム代表)が、2日間の総評を語ったときの言葉を借りるとするならば、
「競馬がある限り、セレクトセールは続いていく」
のだから。
(文:村本浩平)
注記:金額は全て税抜き
ライタープロフィール
村本浩平(競馬ライター)
北海道在住の“馬産地ライター”として、豊富な取材をもとに各種競馬雑誌で活躍中。