セレクションセール2019
セレクションセール2019 総括
セレクションセールの後、上場馬を送り出していた生産者と互いの労をねぎらいながら談笑していたのだが、その時に日高軽種馬農協のサイトで最終更新された、売却総額と平均落札額を見て、
「思ったよりも数字は伸びて無かったんだね」
と顔を見合わせて驚いた。
昨年は2つに分けた選抜市場(セレクションセール、サマープレミアムセール)が、再び1つとなった形で開催された、今年のセレクションセール。上場頭数は一昨年(226頭)とさほど変わらない236頭(昨年は193頭)であり、その意味でも比較すべきは一昨年の数字となるのだろうが、今年の売却総額が28億7340万円と、一昨年の28億8020万円に届いていなかった。1頭辺りの平均価格も1458万5787円となり、一昨年の1565万3261円に届いていなかったどころか、昨年の1459万3289円も僅かながら下回った。
それでいながらも今年のセレクションセールが、大盛況と言えるような空気感に包まれた理由。それはセレクションセールレコードを記録した、83.5%という高い売却率に他ならないだろう。
今年のセレクションセールだが、ギガンティア2018(牡、父ヴィクトワールピサ)が1050万円で落札されると、そこから8頭連続で1000万以上の落札馬が誕生。その間にはアスクレピアス2018(牝、父キズナ)が2000万円で落札されるなど、活発な競り合いこそ起こるも、競馬的な表現を使うとするなら「スタートからゆったりとした流れ」になったも言える。
ここから徐々にペースが上がっていくのが、例年のセレクションセール。しかしながら今年は、ラップこそ一気に上がらないものの、その中で騎手とも言えるバイヤー同士がひしめき合うような、緊迫した競り合いが展開されていった。
この日、最初の3000万超えの取引馬となったのは、3200万円で取引されたピエナアマゾン2018(牡、父ヘニーヒューズ)。そこから一気にセリに火が付くかと思われたが、再び1000万円台、2000万円台でじりじりした競り合いが続いていく。それは新種牡馬や産駒デビュー前の種牡馬の産駒を中心とした、バラエティに富んだラインナップが、購買者にとって選びがいのあるセールだったこと。そして、セリの後半にも良質の馬が揃っていたことも関係していたのかもしれない。
それだけに売却率は常に80%以上をキープしていく。そのことが、
「今年のセレクションセールは物凄く売れている」
との印象を会場内に充満させていく。セリ会場内だけでなく、売却速報が掲示される会場外のモニターには常に生産関係者が集まり、更新される数字を見て、誰もが口々に、
「今年のセリは凄いなあ…」
との感想をもらし、そしてセリを終えた上場馬と、笑顔を見せるハンドラーの方を眺める。今年のセレクションセールが「活気に溢れた市場」であることは、誰の目にも疑いようが無かったはずだ。
上場馬が90番台となったとき、立て続けに3000万円台の取引馬が誕生する。その中で3200万円で取引されたラヴァリーノ2018(牡)はサマーセール、そして、トレーニングセールと2度に渡って日高軽種馬農協の市場で取引されたモーリスの産駒。そのモーリスの産駒だが、アメージングムーン2018(牡)、スマッシュハート2018(牡)も揃って3200万円で落札。他にも2000万円台の取引馬が2頭と、好調なセールを牽引する存在となった。
モーリス産駒をこのセールに送り出した生産者は、配合の理由と、今年のセレクションセールにおける評価の高さについてこう振り返る。
「その競走能力はさることながら、やはり日高から送り出された種牡馬ということで応援したい気持ちもありましたし、購買者の皆さんも日高からモーリス産駒を買いたいという気持ちもあったのではないのでしょうか」
このモーリスと同様に日高軽種馬農協が主催するセールの出身馬どころか、セレクションの取引馬となるのがホッコータルマエである。このセールでは上場された6頭が全て売却。その中でインユアアームス2018(牡)が2700万円という高い評価を受けることにもなった。今年のセレクションセールの上場馬の選考基準の1つとして、木村貢市場長からは、
「まだ種付け料が高くない段階で、生産者が配合しやすいという利点も含めて、今年に限っては新種牡馬を中心とした選考を行いました」
との言葉が聞かれていたが、それはバイヤーにとっても、まだ産駒実績を残していない産駒たちへの期待をかき立てるようなセールとなった感もある。
それでもこの日の最高額馬となったのは、昨年、今年とダートサイアーランキングでトップ10に入っているパイロ産駒のオーシャンフリート2018(牡)の3600万円。その後にもロードカナロア産駒のリアルヴィーナス2018(牡)、ハーツクライ産駒のレックスレイノス2018(牡)が共に3550万円で続く。落札価格のトップ10を振り返ると、昨年のリーディングサイアーで上位にランキングされる種牡馬の産駒たちが多数を占める結果となっていた。これは同じような種牡馬の産駒が上場されながらも、平均価格にかなりの開きがあったセレクトセールよりも、セレクションセールの方が遙かに買いやすいという印象を与えていたことは間違いない。
それはセレクトセールではなく、とびっきりの生産馬をセレクションセールに上場させてきた生産者の思いが反映された結果とも言える。高額落札馬を送り出したある生産者は、
「セレクションセールに選ばれるような配合、管理を心かげた結果が、高い評価として現れたことを嬉しく思います」
とも話してくれた。今やセレクションセールに選ばれるような生産馬を作るのは、生産者にとっての名誉でもある。その確固たる目標があるからこそ、仔出しの傾向や、数年後の時流まで見定めた種牡馬の選定。その後の弛まぬ管理などにも気を払っていくことが、強いては生産馬全ての更なるレベルアップに繋がっていくのだろう。
勿論、出産シーズンの合間を縫って、セリに向けた管理を行っていくのは大変である。その際に最高の状態まで仕上げてくれるのがコンサイナーである。このセレクションセールにおけるセリ厩舎の配置を見ても、コンサイナーごとに上場馬がまとまっていることもあり、お目当ての馬を見に来た購買者が、いつの間に他の上場馬も気になっていた…ということも珍しく無い。
昨年や一昨年のような、4000万円を超えるような落札馬は誕生しなかった。しかしながら、後半になっても落札ラッシュは衰えず、この日、最後に姿を見せた再上場馬にも鑑定人から力強いハンマーが落とされた。
セリの結果を受けて様々な表現が用いられるが、今年のセレクションセールは「ベリーベリーストロングセール」だったと称したい。勿論、抜けた高額落札馬が誕生しなかったことや、一昨年の総売上額、そして一昨年と昨年の平均価格を上回ることができなかったことなどに関しては、今後の検証が必要だろう。だが、それ以上とも言えるセールへの信頼感と「セレクションセール」という19年間に渡って築き上げられてきたブランド力。そしてセレクションセールに足を運んでみたいと思う購買者の数が、過去最高となる687名となったこともまた、「83.5%」という過去最高の売却率として現れた。
木村貢市場長もまた、この売却率を高く評価するコメントを残しており、
「高い売却率を維持できたことからしても、セリの好況は続いている印象を受けます。市場から誕生した種牡馬(モーリス、ホッコータルマエ)も、今後のセールにおける看板となっていくのでしょうし、今後もこうした魅力のある種牡馬の産駒を揃えながら、更に魅力溢れるセールを行っていきたいです」
と話している。最後に記者から向けられた、今回のセールの採点については、
「様々な反省点に関しては、今後の市場委員会で話し合っていきたいと思いますが、それでも90点以上は与えられるのではないのでしょうか」
と笑顔を見せていた。今後、行われるサマーセール、セプテンバーセール、オータムセールに向けても、いいバトンを渡せそうな結果となった今年のセレクションセール。主催する市場の全てを終えたとき、木村市場長からは今年1年を振り返って「100点」との評価が出ていることも、充分に期待できそうだ。
※取引価格は全て税抜
(村本浩平)
ライタープロフィール
村本浩平(競馬ライター)
北海道在住の“馬産地ライター”として、豊富な取材をもとに各種競馬雑誌で活躍中。