セレクトセール2019

セレクトセール2019 総括

セレクトセール2日目の総評を書き終えて帰り支度をしていた時、今年、初めて取材に来たという記者の方からこんな質問を受けた。

「どうして、今回のセレクトセールは200億円もの売り上げがあったのですか?」

その問いに対して幾つかの事実をあげながら答えを返していったのだが、話している自分もまた、200億円市場となったセレクトセールの凄さや、このセールから送り出された数々の名馬の姿を振り返っていた。

セレクトセールが200億円市場となった理由。それはひとえにこのセールから送り出された活躍馬に他ならない。セレクトセールの歴史の原稿にも記したように、2016年産まれのセレクトセール取引馬389頭の中から、今年の日本ダービー馬ロジャーバローズが誕生しただけでなく、オークス馬のラヴズオンリーユー、朝日杯FSとNHKマイルCとGT2勝をあげたアドマイヤマーズ、阪神JFを制したダノンファンタジーと4頭のGT馬が輩出された。単に現3歳世代だけを見ても、このセールの出身馬がクラシックだけでなく、GTレースに近い存在であることが証明されている。

セレクトセール2019

クラシックを勝てる馬、もしくはクラシックに出走できる馬はセレクトセールにいる。その馬を手に入れるためには、他の誰よりも高い評価をしなければいけないが、誰もが公平な立場でその機会を与えられているからこそ、血統、馬体とまばゆいばかりの魅力を持った上場馬の評価は限りなく高くなる。それが売却総額を更に押し上げる形となった。

理由のもう一つはこのセールから、現在のリーディングサイアーの上位にランキングされるような種牡馬、そして優れた産駒成績を残している繁殖牝馬が取引されていることにもある。

セレクトセール出身馬のディープインパクトは、現役時に無敗での牡馬クラシック三冠を含め、GT7勝の成績を残していた後、種牡馬としても7年連続リーディングサイアーに輝いている。その他にもキングカメハメハ、マンハッタンカフェといったリーディングサイアーもまた、セレクトセールの出身馬である。

今年のセレクトセールは、そのディープインパクトの産駒だけでなく、キングカメハメハやロードカナロア産駒からも数多くのミリオンホースが誕生した。こうした血統馬を落札した落札者からは、

「競走馬としての活躍だけでなく、種牡馬としての未来像も思い描いている」

とのコメントも聞かれたが、その期待値も込みでの評価額となったのは間違いない。
また、牡馬、牝馬問わず、濃いブラックタイプを持ったセレクトセールの上場馬は、繁殖セールとして見ても、魅力的な牝馬たちも上場されている。実際にセールに来ていた生産者からは、

「あの値段なら繁殖としての評価込みでも、買ってもいいかなと思ってしまうよね」

との話も聞かれた。競走馬としての価値だけで無く、引退後の付加価値まであることもまた、活発な競り合いをもたらした。

理由のもう一つは先述した血統にも関係してくるが、このセールにはデビュー前の種牡馬の産駒にも魅力的な上場馬が揃っていることである。

来年、待望の初年度産駒がデビューを迎えるドゥラメンテ、そしてこの当歳世代が初年度産駒となったキタサンブラックとドレフォンは、こぞってミリオンホースを送り出した。これは先物買いというよりも、配合された繁殖牝馬の質の高さや、父の良さが現れた馬体など、産駒のデビュー前からどうしても手に入れたいという購買者の気持ちの表れともなった。

飢餓感を煽ったという意味では、このセレクトセールの最中に種牡馬引退が発表されたキングカメハメハや、体調不良により、3月末で本年度の種付けを中止したディープインパクトの産駒を、1歳、当歳共に上場頭数が揃った今年のセリで手に入れたいという気持ちもあったのかもしれない。1歳セクションの最高額(3億6000万円)となったミュージカルウェイの2018(牡)、当歳セクションの最高額(4億7000万円)で、セレクトセール史上でも4番目となる落札額となったタイタンクイーンの2019(牡)ともに、ディープインパクトの産駒。来年の当歳セクションは一気に上場頭数が減ることを考えても、今年のセールでディープインパクトやキングカメハメハの産駒を選びたいという思いは、一際強かったのかもしれない。

それが総額205億1600万円というセレクトセールの22年の歴史の中で、最も高い総売上や、二日間を通しての落札率91.4%、そして1歳、当歳を合わせた1頭辺りの平均価格が4932万円という、全てにおいてセールレコードというスーパーストロングセールへと繋がった。そのような説明を記者の方にすると、

「本当に凄いセリなのですね」

と改めて感心した様子を浮かべていた。

しかしながら、来年以降はディープインパクトやキングカメハメハといった、これまでセリを牽引してきた産駒が上場頭数を大きく減らしていくのは確実であり、それはミリオンを超えるような高額落札馬の減少へとも繋がっていく可能性をはらんでいる。そのことについてセールの終了後に質問を向けられた、日本競走馬協会会長代行を務める、吉田照哉氏(社台ファーム代表)だったが、

「残念であることには違いはありませんが、競馬のサイクルを見てもその種牡馬の子供や孫たちが次代の種牡馬となって、更に競馬を盛り上げていますし、その中で何が出てくるかという楽しみもあるかと思います。高額落札馬の数は減るかも知れませんが、その分、全体的に例年よりも更に評価額を上げていくようなセリになるのではないのでしょうか」

とも話した。その裏付けとなりそうなのは、今年の購買登録者となった688名という数である。二日間を通した取引馬の数である416頭よりもはるかに多いのだ。しかもこの中には、最近セレクトセールに参加してきた購買者もいれば、第1回のセールから落札者として名前を残す購買者もいる。その数の増減はあれど、来年以降に一気に購買者の数が減ることは想像しがたく、むしろ今後のセレクトセール出身馬の活躍を受けて、更に購買者の数は増えていくと見た方がいいだろう。

200億円市場となった今年のセレクトセールに立ち会えたことは光栄である。今年は空前絶後のセリ市となっただけに、来年以降は多少なりとも数字を落としてしまうのかもしれない。それでもノーザンホースパークの特設会場に集う、購買者や上場者、そしてセリを運営するスタッフの熱気は第1回目のセールからそうであったように、23年目を迎える来年も、そして、これからも変わりないはずだ。

今年のセレクトセールの歴史に際して、過去の日本ダービーに使われたキャッチコピーを元にした言葉を使わせてもらった。この文章の終わりもまた、今年の日本ダービーのキャッチコピーからインスピレーションを受けたこの言葉を使いたいと思う。

「来年もこの熱き日に、熱きセールが行われるこの場所で!」

(文中の価格は税抜き)

ライタープロフィール

村本浩平(競馬ライター)

北海道在住の“馬産地ライター”として、豊富な取材をもとに各種競馬雑誌で活躍中。

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