セレクトセール 2019

セレクトセールのみどころ

2016年生まれの現3歳世代は、2018年暮れ、ダノンファンタジーが阪神JFを優勝、2歳牝馬チャンピオンの座を射止めた。翌週の朝日杯FSはアドマイヤマーズが奪取、2歳牡馬チャンプのタイトルベルトを手にした。

2019年・牝馬クラシック第二弾の優駿牝馬は、ラヴズオンリーユーが怒涛の差し脚で強襲。そして東京優駿は、ロジャーバローズが必死の我慢で日本ダービーをもぎとった。

気がつけば本年3歳世代のセレクト出身の軌跡は、当セリ市場始まって以来と呼べるほど深く大きく、太くうねる潮流として世代競馬シーンの前途を導こうとしている。

2019年セレクトセール風景

セレクトセール風景(2019.7.7撮影)

なんて、振り返れば2016年の当歳の下見所で、ヒップナンバー409番・ディープインパクト×リトルブックの前でカタログを広げ、「ああ。お母さんは、ドナブリーニの姉妹なんですね?」――傍らで同行取材者がポツリ。

付き添う当歳の息子も、肌合いは母に似た明るい鹿毛。少し背中のラインなどは異なるものの、目つきや全体像は、ごく近親のジェンティルドンナにも似ているように思った。

だからといって、あの時のリトルブック2016年が、ホントにまさか――セレクトセールは、当歳(もしくは1歳)という誕生間際から、生産者・購買者ともに、可能性と想像力とを育み、そして試す(良くも悪くもお金でも)、競馬の本質の見本市なのかもしれないなぁ…。

なんて、冒頭に挙げた4頭のGI馬の中で、ディープインパクト産駒は3頭。種牡馬入りしてすでに10数年が過ぎ、種付け料もセリ価格も年々高くなってはいるが、同時に一頭当たりのディープ産駒のアーニングインデックスの数値もアップ傾向にある。

その年どしにおいて、考えうる一番の繁殖牝馬を常に配合してきたのだから、それも当然だろうという声を聞くが、山や谷が少なく結果を出し、種牡馬として、世界でもめったにお目にかかれない、異例の飛びぬけた平均値を維持してきたんだよなぁ。

今年のセレクト出身者によるGI戦績は、種牡馬として晩年にさしかかったディープのご褒美――集大成なのかもしれない。

しかしディープ産駒は、本年1歳世代の翌年から漸次に頭数が絞られることが伝えられている。

すでに始動を開始した現2歳も含め、本年1歳世代が(セレクト出身者が)、種牡馬ディープの後継者までを一気に決着をつける、最後の大きな花火を打ち上げるのかもしれない。

もちろん、ディープの仔は、あれもこれも欲しい。それは誰だって同じ。複数頭はなかなか買えないだろうから、自分の好みの姿形などを探り、絞っていくことが必要になってくる。

サラブレッドとは、セリとは本来、損得勘定や利害を超え、個人の好奇心の沸騰した先にあるものだが、その「数奇」のようなものを心得た高額落札者のみなさんだって悩みに悩む(楽しそうだね)。

いやいや、ディープ産駒の価格帯(普通に1億以上)に踏み込んでいくと、もうあとがないよ。頭数の少ないキングカメハメハは別にして、ならば、そのちょっと下の価格帯のハーツクライかロードカナロアに波状攻撃をかけたい。

ハーツクライはディープに比べると波はあるが、一頭あたりの獲得賞金を伸ばす可能性を秘めている。現役時代さながら、同じサンデーサイレンス系で、「ディープ封じ」ができるのはハーツしか思いつかない。

ロードカナロアは、初年度にアーモンドアイ、セカンドクロップは皐月賞馬サートゥルナーリアが登場。種牡馬サイクルは、初年度の戦績から一度、谷に落ち込む時期などあるものだが、1歳・当歳のカタログや紹介映像などを見ると、平均的なレベルはむしろ前年より上がっているように映る。

いや、SSも、SS系の大黒柱であるディープがいないとなると、既定の種牡馬の後を追うのでは後れを取る。

そう、まだ結果が出ていない、2クロップ目の今だからこそ案外とお買い得?――初日の1歳セールは、ポスト・ディープとしてドゥラメンテ、モーリスに、全力で、ドトウのアタックを開始しなくっちゃ。

あと1年もすれば、何年かして振り返ってみれば、あのセレクトが、ドゥラメンテ選定のポイントだった。結果的に落札額は安かったかも――来年再来年はもう手の届かない高値になっているだろうと予測する人もいる。

さらにチャレンジ意識の強い人たちは、ポスト・ディープのエポックメイキングとなる、当歳セッションに意識を集中。どうせなら、まっさらな新種牡馬がいいね。

スピードと筋肉美ならドレフォンでしょう。いや、バランス感ならイスラボニータですよ。GIタイトルには手が届かなかったが、シルバーステート産駒たちの造りが気に入った。 サクラバクシンオーの後継種牡馬としてビッグアーサーがいるなぁ。そういえば、キタサンブラックにも、バクシンオーの血が流れているんだよね?

今年の二日目・当歳セッションは、血統や身体の造りそのものの好みが、大きく分かれる可能性も捨てきれず、もしかしたらセリ始まって以来の、いい意味での混沌。

馬、競馬の可能性という図を、どう描くのか。かつてないイマジネーションの激突になるかもしれない。

ライタープロフィール

丹下日出夫(競馬評論家)

「ホースニュース馬」を経て現在は毎日新聞本紙予想。POG大魔王の通称も定着している。

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