インタビュー直前にフォーエバーヤングがサウジCを勝利。昨年もチェルヴィニアやアーバンシックがクラシック制覇、レガレイラが有馬記念を優勝するなど、大一番での強さを発揮したノーザンファーム早来。
今年も津田朋紀場長に、注目の2歳馬についてじっくり聞かせてもらった。次世代のビッグネームは、この中に必ずいる!
クラシック前の時点で、現3歳世代について振り返っていただけますか。
3歳世代は、前年に比べるとアベレージが出ず、悔しい思いをしました。決して素質が劣っていたわけではないので、ここから勝ち上がる馬も出くるでしょうし、クラシックも形になるとは思います。ただ、現状の数字に関しては、少し物足りなさを感じます。
反省点はどのあたりだと考えていますか。
攻めた世代ではあったので、それが影響したのかもしれません。まだまだ課題は残っていますが、先を見据えて考えるようにしています。
3歳世代の結果は関係なく、以前から決まっていたことだとは思いますが、人事面でも大きな変化がありましたね。
アンラーニング、学び直しの一環で新たに組織を編成しました。ノーザンファームはここ5年、完成形に近づくために前進し続けてきました。ただ、完成したと思った時点で組織は変化できなくなり、終わりの始まり≠迎えてしまいます。そうした懸念もあり、今回、変化を求めました。
新たな学び直しのために、日下統括主任や、厩舎長だった山内さんや佐藤さんが調教主任に登用されました。
若い主任には新しいことにどんどん挑戦してほしいと思っています。若い厩舎長も増えてきたので、牧場全体も変わっていくでしょう。馬の個性はそれぞれ違うので、一点勝負で答えを見つけるのは不可能。結果が出れば勝ち≠ニいう世界でもあるので、新たな発見に期待しています。
トレーニング部分でも変化があったそうですね。
ノーザンファーム空港で日本ダービーを3勝した(レイデオロ、ワグネリアン、ロジャーバローズ)大木さんに「データ分析チーム」の中心を担ってもらっています。分析チーム、現場の馬乗り、獣医の三者が相談し、色々と新しいことをやっていこうという試みですね。
そして、今まで牡馬、牝馬と担当の主任が分かれていましたが、今年からその隔たりもなくなりました。その点はプラスに繋がっていますか。
調教主任である横手さんの笑顔が多くなりましたね。ベテランが笑顔で働く姿を見られるということは、それだけ環境が変わったということだと思いますので、僕はやって良かったと思います。
牝馬を見ることで、新たな発見もあるのでしょうか。
あると思います。近年の早来は、強い牝馬を輩出してきましたが、それこそ常識に囚われてはいけません。この新たな試みで、馬にも変化が表れています。例えば、昨年チェルヴィニアでオークス、秋華賞を勝った山根厩舎は、横手グループになったことで、全体的に馬体の力強さが増したと感じています。
すぐに効果が表れるものなんですね。
本人も手応えを掴んでいると思います。今の若い厩舎長はコロナの影響もあり、トレセンなど外に行く機会があまりなかったんです。自分たちが送り出した馬を、トレセンの先生方がどう感じているのかを知っておく必要があるので、勉強しに外に出て行ってほしいと思っています。
先ほどチェルヴィニアの名前が出たので、レガレイラについてもひと言いただけますか。
有馬記念を勝てて安心しています。この取材を始めたときに「5年以内に凱旋門賞を獲る!」と誰に頼まれたわけでもないのに宣言したわけですが、ゴーサインが出れば、この馬で挑戦したいですね。今年が5年目ということもありますし、有馬記念を勝ったことで「これで挑戦を口にできるな」というのが素直な感想です。
フォーエバーヤングのサウジCといい、以前までは考えられなかった快挙が次々と達成する流れになっていますね。
でも、以前のインタビューで大風呂敷を広げたら、昨年は海外で全然勝てなくて……。言葉のサジ加減は難しいですね(笑)。サウジで日本馬が活躍してくれて本当に良かったです。
それでは今年の2歳馬について話を聞かせてください。
この世代のクラシックディスタンスの中心は、新種牡馬のコントレイル産駒になると見ています。身のこなし、運動神経の良さ、あと適度に芯の入った歩きのスムーズさが魅力ですね。
厩舎からも良い言葉は出てきていますか。
みんな背中を褒めますし、1歳の時から全然崩れていませんね。あとはギアがもう1個あるかどうかだけ。そればっかりは、北海道では測ることができないので、それが最後のハードルになるでしょうね。
ちなみに、次世代にはイクイノックスの初年度産駒が控えていますね。
コントレイル産駒の方がガチッとしていて、イクイノックスはスラッとしていますね。好対照で好みは分かれるでしょうが、こちらも良い馬がそろっていますよ。
では話を戻して、注目のコントレイル産駒を教えてください。
一番の好みは、石井厩舎のシユーマ23(牡)。石井厩舎は初年度から勝ち上がり率、入着率が高いんですよ。
アーバンシックで菊花賞も制覇しました。
大したものです。彼は黙っていると強面に見えますが、繊細な男なんですよ。空港でずっとやってきた経験も生きているのでしょう。同じく空港から早来に戻って来た伊藤厩舎のモヒニ23(牡)も良いですね。秋デビューかと思いますが、必ず良くなってくると思っています。牝馬ではスウィッチインタイム23が順調ですね。あとはビッグワールド23も、ここに来て急激に良くなってきました。
このまま、新種牡馬のクリソベリル産駒についても教えてください。
クリソベリルはうちにいる種牡馬の中でも、一番馬格がありますね。スケールの大きさが魅力で、それがしっかり産駒にも伝わっています。牡馬だとパリスビキニ23、レーヴドリーブ23。牝馬だとランプフィーバー23が良い動きを見せています。
あと、ポエティックフレア産駒が走るのでは……≠ニ実しやかに囁かれているようですが、実際のところいかがですか。
かなり良いですよ。数が少ないので目立ってはいないのですが、どの馬も素質は良いものを持っています。
去年のシスキン産駒と重なるかもしれませんね。津田場長は、昨年シスキンを推されていました。
こうしたPOG取材の場で名前を出して注目されてほしいんです。どうしても頭数が少ないと埋もれてしまいますからね。シスキンの仔はちょうど良いサイズに出て、運動神経も良さも感じさせるんです。個人的な思いとしても、注目していますし、支えていきたい種牡馬ですね。この話の流れで、先にシスキン産駒の注目馬を挙げますと、ケアレスウィスパー23(牝)には注目してみてください。
楽しみですね。それでは、ポエティックフレア産駒について教えてください。
全体的にアベレージが高いのですが、イルーシヴゴールド23(牡)は、芝で走れそうなスピード能力を見せていますね。あとは、パンデリング23(牡)も良さそうですよ。
続いて2世代目となるサートゥルナーリア産駒はいかがですか。
去年は少し遅いかな≠ニいう声が数多く現場から聞こえたのですが、今年は早くから動けそうです。具体的には、牡馬だと友道厩舎に入厩するウィープノーモア23。あとは、ウィクトーリア23、ソーメニーウェイズ23あたりですね。牝馬だとフェルミオン23。少し遅くなるかもしれませんが、シーウィルレイン23は大物感があります。この馬は走らせたいと期待しています。
続いてエピファネイア産駒。今年はいつもにも増して頭数が多い印象です。
この世代は集まりましたね。まず桑田厩舎のサラキア23(牡)に関しては、かなり期待しています。桑田厩舎長は、わりと馬の成長を待つタイプなんですが、今年は早めに動かしてほしいとお願いしたんです。
実際、厩舎取材でも「不安な面もあったけど、思った以上に良い」と話してくれました。
自信を持ってくれていると思いますよ。サラキア23は、田中博康厩舎に入厩しますが、タナパクさんなら走らせてくれると期待しています。非常に良い厩舎ですからね。
まだ9年目ですが、昨年はリーディング6位と、躍進を続けている注目の厩舎です。
馬の状態も良いし、何よりスタッフが前に出て、積極的に良い仕事しています。こうしたチームを作らないといけないなと思いましたし、うちのスタッフにもぜひとも見てほしいですね。
その他のエピファネイア産駒はいかがでしょうか。
まだまだいます。牡馬ではクロノジェネシス23、牝馬だとシンハライト23、タイタンクイーン23、コスモポリタンクイーン23。あとアドマイヤミヤビ23は、良い意味で上と比べて遊びがあるのが良いですね。手応えを感じています。
それではキタサンブラック産駒について聞かせてください。
繁殖が集まってきた世代ですね。勝率などもさらに上がってくると思います。牡馬はサマーハ23、ファディラー23、そして個人的に一番好きなのがピノ23。イヤリングの時は薄かったけど、運動神経がすごく良かったんです。イクイノックスを彷彿させる成長力を感じさせます。
それは心惹かれる言葉ですね(笑)。
なかなか膨らんでこないな……と不安になるくらいがキタサンブラックの良い成長曲線だと思っていますが、ピノ23はそれに当てはまります。牝馬はチェリーコレクト23、シャトーブランシュ23、ウィンターコスモス23。キタサンブラック産駒は必ず走ってくると思います。
続いてリアルスティール産駒について話を聞かせてください。
全体的には少し小粒なのですが、牝馬のアメリ23、アトミカオロ23が走ってくれたらと思っています。牡馬だとロッテンマイヤー23。良い背中を持っていますよ。
キズナ産駒はいかがでしょうか。
良い繁殖が集まっているので、早来の中心になると思います。牡馬はリリーノーブル23、マラコスタムブラダ23、アウィルアウェイ23。牝馬はノームコア23が現状では抜けています。それに続くのがシークレットスパイス23、ハウメア23、アンフィトリテU23。まさに粒ぞろいですね。
その他の注目馬を教えてください。
まず新種牡馬のインディチャンプ産駒は早くから動けると思います。奥ゆきがありそうなロカ23。同じく牝馬ではアビラ23、トレジャーステイト23でしょうか。それと日高地方でダノンキングリー産駒の評価が高いと耳にしました。そのダノンキングリー産駒では、カレドニアレディ23(牝)に注目しています。
どの種牡馬からでも大物が誕生しそうですね。
昨年走ったアドマイヤマーズ産駒は、今年も走ってくるはずです。牝馬2頭のロサグラウカ23、プティフォリー23。
あとはモーリス産駒も良いですよ。牡馬ならマーブルケーキ23、サトノジュピター23、ドゥラモット23。牝馬だとコーディエライト23は走ってくれると期待しています。
本コンテンツは、黄色のPOG本 「POGの王道」2025-2026(双葉社)の一部を掲載しています。